世界で唯一、約300点におよぶキース・ヘリング作品を所蔵する中村キース・ヘリング美術館。そんな同館が、2019年度のコレクション展として「Keith Haring:Humanism ー博愛の芸術ー」を開催する。本展は、人種も宗教も性別も凌駕する愛を信じたアーティスト、キース・ヘリングの思想を紹介するもの。
アメリカ・ペンシルバニア州カッツタウンという小さな町を故郷とするヘリングは、幼少期より父と絵を描き、日曜日には家族で教会へ通うという家庭に育った。アーティストを目指してニューヨークへ渡ると、アトリエでの作品制作以外にも世界各地に足を伸ばし、ワークショップや壁画制作を意欲的に行ったり、児童病院などの公共施設へ作品を寄贈するなど、芸術活動の幅を広げていった。
景気の低迷、人種差別、エイズ感染の拡大などの問題を抱え、混沌とした1980年代のニューヨークを背景に、エイズ予防啓発や反アパルトヘイト、アフリカ緊急救援基金の展覧会などのために、数多くのポスターを手がけたヘリング。ときにはそれを公共の場で無料で配布し、社会の束縛や抑圧からの解放、人間の自由と平等を掲げたのだった。
本展では、そんなヘリングが活動初期にあたる80年頃より制作を開始した「サブウェイ・ドローイング」シリーズも展示される。同作は、ニューヨークの地下鉄という公共空間での落書き行為であるというリスクを伴いながらも、「アートはすべての人のために」という信念のもと約5年にわたって敢行された。
加えて、ヘリング芸術を象徴する作品のひとつ《スウィート・サタデー・ナイト》も見ることができる。同作は、85年にブルックリン・アカデミー・オブ・ミュージックで、黒人のストリートダンスと社交ダンスの300周年を記念して上演されたパフォーマンスの舞台セット。横幅6メートルを超える大画面に黒い線が踊るように描かれた同作は、ニューヨークで最盛期を迎えていたクラブカルチャーの熱気と生命力に溢れている。