矢野憩啓「フルーツバスケット」(BUG)レポート。絵画と言葉のあわいにまなざしを向ける【3/4ページ】

絵画と言葉、そのあわいに目を向ける

 矢野の絵画には、日常的なモチーフが描かれているいっぽうで、まるで夢のなかのような独特の状況が描かれることもある。生垣には3種類の単語帳がぶら下がっており、それぞれには矢野が日常のなかで集めたものや、偶然出会ったもの、関心ごとにまつわる言葉が記されている。裏面にはその言葉の意味が書かれているが、その解釈はユーモアを交えつつも、鋭い観察眼を持つ矢野ならではの視点が反映されている点が特徴だ。

展示風景より

 展覧会に足を運ぶと、一般的には絵画の横に細やかな文章で作品解説が添えられていることが多く、そちらを読むことに気を取られてしまい、思いのほか絵そのものを見られていないと感じることもあるだろう。この展覧会では、そうしたキャプションが設けられていない代わりに、単語帳がその役割を担っている。そこに書かれた言葉と絵画に現れるモチーフをどのように結びつけ解釈するかは、ある意味、鑑賞者に委ねられていると言える。

 鑑賞者にとって、この単語帳は、展覧会や絵画の鑑賞体験を広げる装置として機能すると同時に、絵画と言葉のあいだにある距離そのものが、自身の関心と社会的な視点のあわいを手探りするアーティストの現在地を示しているようでもある。

 空間づくり、作品、言葉──そのいずれにおいても、矢野が「余白」を意識していることが伝わる構成となっている。

展示風景より
展示風景より