「おせっかい」という名の濃密なコミュニケーション。スタッフとファイナリストたちが語る「BUG Art Award」の現在地

リクルートホールディングスが主宰する「BUG Art Award」は、制作活動年数10年以下のアーティストが対象のアワードとして、2023年より東京駅八重洲南口にあるアートセンター「BUG」を拠点に始動した。第1回における作品募集・展示と審査・受賞者決定というサイクルが一巡し、現在は第2回のファイナリストが決定。ファイナリスト展が開催中となっている(〜10月20日)。新しく誕生したアワードの船出はいかに行われてきたのか。今後は舳先をどちらへ向けるのか。日々業務に携わるスタッフと、第1回のファイナリストとなったアーティストたちの声を聞いた。

聞き手=山内宏泰 写真=手塚なつめ

ファイナリストは、左から乾真裕子(オンライン)、彌永ゆり子(オンライン)、前列の向井ひかり、山田康平、宮内由梨、近藤拓丸。BUGスタッフは後列左から野瀬綾、石井貴子、片野可那恵

既存アワードにおける「不」をきっかけに

 まずは「BUG Art Award」に携わるスタッフの奮闘ぶりを伺おう。アートセンター「BUG」の立ち上げから携わり、アワードのプロジェクト・マネージャー的立場にある野瀬綾、審査の対象となるファイナリスト展の運営を担う片野可那恵、第2回から募集に関する業務を担当する石井貴子の3人が、その実状を語る。

──まずは「BUG Art Award」の成り立ちを教えてください。どのようなきっかけで始まり、どのような構想だったのでしょうか? また、現在第2回のサイクルも終盤に差し掛かっていますが、アワードとしてのブラッシュアップは随時行われているものなのでしょうか?

野瀬綾(以下、野瀬) もともとリクルートホールディングスではガーディアン・ガーデンというギャラリーを銀座で運営しており、公募展「1_WALL」も主宰していました。1990年代から継続してきたものですが、長く続けるうち時代に則さない面も出てきます。例えば、募集ジャンルを「写真」と「グラフィック」に分けていたものの、いまやそれぞれの定義が揺らぎ、分離させておく必然性は薄れてきました。

 そこで公募の在り方を見直そうと、アーティストや学生など約20人にヒアリングをしたんです。リクルートでは「不」という言葉を使うのですが、「不満」「不安」「不便」などをあぶり出そうと考えまして。どんな「不」が挙がったかと言えば、世のなかに公募は多いけれど案外ハードルが高い、ということ。応募料がかかる、地方在住だと参加しづらい、年齢制限に引っかかる、ジャンルがあわない、などです。

 それらの「不」を取り除いたアワードを新たにつくろうと考え、ジャンルの撤廃、応募料不要、年齢制限なし(制作活動年数10年以内の方は応募可、年数は自己申告)、審査過程の展示へ制作費を出す、といった要素を盛り込んだ設計のもと、BUG Art Award を立ち上げました。

野瀬綾

片野可那恵(以下、片野) BUG Art Award では、様々な発表の場を設けることに注力しています。作品を自分の望むかたちで発表したり、想いを伝えられるようになることは、アーティストが独り立ちするうえでも必須の能力となるので。審査を経て選ばれたファイナリストたちによるファイナリスト展やグランプリ受賞者の個展はもちろん、トークイベントやレクチャーを開く機会もできるだけつくろうとしています。

 展覧会やイベントをつくり上げるには、費用や経費がかかり、多大な時間も割かなければなりません。アーティストの負担は想像以上に大きくなります。そうした面もできるかぎりのフォローをしたいと思っており、制作費はきちんとお支払いし、必要な金額をきちんとヒアリングし、できる限りその要望に応えていけるように努めています。

石井貴子(以下、石井) 第1回からたくさんの応募をいただいていますが、地域的な偏りが出てしまっていることは課題としてとらえています。第1回、第2回とも40パーセント以上が東京在住の方による応募で占められており、応募者ゼロの県もあるのが実際のところです。BUG Art Award の波は全国へ広げていきたいと思っているので、これから始まる第3回の募集は、東京近郊以外の地域へスタッフが赴き、説明会などを開いていこうと考えています。

 アワードとしては、何より応募しやすい環境をつくりたいと考えています。応募期間を毎年1月末〜2月末に設定しているのは、卒業制作の作品やポートフォリオを、アワードの応募にも活用してほしいという意図があるからです。応募の準備には時間と労力がかかり、そうした作業に慣れていない方もいらっしゃるので、BUGではポートフォリオづくりやステートメントの書き方をレクチャーする基礎講座も開催しています。

 応募のためのみならず、アーティストの基礎知識を身につける第一歩としても、こうしたレクチャーを活用いただきたいです。

石井貴子

編集部

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