インドネシアのアートシーンの特徴として、国の文化政策や公的な支援が極めて限られている点が挙げられる。アート・ジャカルタに出展したオオタファインアーツのパートナー兼シニア・ディレクターの鶴田依子は次のように語る。「全然国のサポートとかがないから、インスティチューションもないんですよ。だから、個人のコレクターが自分のプライベートミュージアムをつくって、自分でサポートするというのが大きな特徴です」。

この“民間主導”の構造を支えているのが、強固な「コミュニティ」の存在である。Ara Contemporaryのメーガン・アーリンはこう語る。「ここでは、コレクターもアーティストもギャラリーも、それぞれが最大限の努力をしてフェアを成功させようとしています。コレクターは自分のコレクションを国際的なゲストにも開放し、ギャラリーもベストな展示を行う。ジャカルタを国際的なアートマップに載せようという“集団的な力”を強く感じます」。
インドネシアのアートシーンにおけるコミュニティの重要性は、同国を代表するアーティスト・コレクティブ「ルアンルパ」の存在にも象徴される。ルアンルパは、2022年に「ドクメンタ15」の芸術監督を務め、同年『ArtReview』の「Power 100」で1位に選出されたことで知られる。今年結成25周年を迎えた彼らは、アート・ジャカルタの会期に合わせて隣接会場で記念展を開催。これまで全国各地のアーティスト・コレクティブと協働してきた代表的なプロジェクトを振り返る内容となった。
インドネシア国内には約1000の芸術系高等教育機関があり、ジャカルタ以外にもジョグジャカルタ、スラカルタ、バリ島などにアーティストコミュニティが広く分布している。オオタファインアーツの鶴田は次のように話す。「インドネシアのアーティストのあいだにはすごく強い“横のつながり”があります。若いアーティストが、さらに若い世代に教える、そういう文化が根付いているんです」。

こうした活況のいっぽうで、新興市場ならではの社会的課題も存在する。国内の経済格差や不均衡な所得分配、政策をめぐる不安定さは、アートマーケットにも影を落とす。今年の夏から秋にかけて、政府の経済政策に反発する大規模な抗議デモがジャカルタで発生し、国内外の関係者のあいだに一時的な不安が広がった。
それでもなお、アーリンは楽観的な見方を示す。「抗議活動のあと、不安の声は多くありました。でも同時に、ローカルのアートシーンを支えようという気持ちがより強まっているのを感じます。いまこそ、この場所を支える好機なのかもしれません」。
彼女はさらにこう続ける。「インドネシアは地理的にも非常に大きな国で、人口も多く、ディスコースの幅も広い。だからこそ、この市場には持続的な成長の余地があります」。



















