ヴェネチア・ビエンナーレでのイスラエル館設置。国際展作家らが公開書簡で異議

第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展「In Minor Keys」のアセナーレ会場内に仮設的に設置されるイスラエル館をめぐり、ビエンナーレの参加アーティストらが公開書簡を発表した。

アセナーレ会場 Photo by Andrea Avezzù. Courtesy of La Biennale di Venezia

 第61回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展「In Minor Keys」(5月9日〜11月22日)に参加するアーティストおよびキュレーターの一部が、ビエンナーレの運営方針に対する懸念を示す公開書簡を発表した。

 問題となっているのは、アセナーレ会場内にイスラエル館を仮設的に設置するという決定だ。3月31日に公表された書簡では、この措置が昨年急逝した総合キュレーター、コヨ・クオの掲げたキュラトリアル・コンセプトと整合しないと指摘。「イスラエル館を国際展と同じ空間に挿入することは、クオの構想や彼女が重視してきた“ラディカル・ソリダリティ”の理念に反する」と述べている。

 さらに書簡は、特定の国家館の排除の要求にとどまらず、国際的な政治状況とビエンナーレの関係を問い直す内容となっている。書簡は「戦争犯罪や人権侵害に関与する国家の参加を許容することは中立ではない」とし、過去に南アフリカやロシアの参加が制限された前例を引きつつ、「イスラエル、ロシア、アメリカといった国家の参加についても再考が必要である」と主張する。

 また、パレスチナ館が存在しない現状にも言及し、「不均衡を拡大させる要因となっている」と指摘。ビエンナーレが倫理的判断を求められている状況にあるとの認識を示した。

 本書簡には、111組の国際展参加アーティストの半数以上が署名しており、日本からは嶋田美子、ブブ・ド・ラ・マドレーヌ、アレクサ・クミコ・ハタナカらも名を連ねている。

 参加アーティストの嶋田美子は、「美術手帖」に寄せたメールで次のように説明する。「この問題はコヨさんのキュラトリアル・コンセプトにそぐわないものであり、撤回を求める手紙を提出しました」。そのうえで、「たんにイスラエル館の排除を求めるものではなく、『なぜパレスチナ館が存在しないのか』『なぜ過去に排除された国々と現在の戦争当事国の扱いが異なるのか』を問う内容です」と語る。

 ビエンナーレ側は「イタリアはパレスチナを国家承認していない」とする従来の見解を示したが、アーティスト側はこれ以上の対話は難しいと判断し、書簡を世界の主要美術メディアに向けて公表したという。

 いっぽう嶋田は、今回の動きがボイコットやストライキといった手段ではないことも強調する。「私たちは破壊的な行動ではなく、コヨさんの遺志を尊重し、アートや詩、サウンドによる表現を通じた行動を考えています」と述べ、オープニングウィーク(5月5日〜9日)には、パレスチナの状況を可視化するアートアクションを計画していることを明らかにした。

 なお、同様にイスラエル館排除を求める、「Art Not Genocide Alliance(ANGA)」といったアーティスト・グループによる声明も発表されているが、嶋田自身は「その声明とは無関係」であるとし、「より広い視点から問題提起を行うことが重要だ」と述べている。

 コヨ・クオの死後、その理念を継承するかたちで進められている今回のビエンナーレにおいて、キュラトリアル・コンセプトと国際政治の関係をめぐる議論は、今後も続きそうだ。