密教の世界観を感じ、空海の活動を知る。来春、奈良国立博物館で開催予定の「空海」展が詳細を発表

2024年4月13日〜6月9日に奈良国立博物館で開催される「空海 KŪKAI ― 密教のルーツとマンダラ世界」。10月2日に東京都内で行われた記者発表会にて明らかにされた同展の詳細を紹介する。

文=王崇橋(ウェブ版「美術手帖」編集部)

国宝 両界曼荼羅(高雄曼荼羅)のうち金剛界(部分) 平安時代(9世紀) 京都・神護寺

 2024年4月13日より奈良国立博物館で開催が予定されている展覧会「空海 KŪKAI ― 密教のルーツとマンダラ世界」。その詳細が10月2日に東京都内で行われた記者発表会にて明らかにされた。

 本展の担当者であり奈良国立博物館 列品室長である斎木涼子は次のように述べている。「空海は、日本の仏教・美術・文化に大きな影響を与えた方だ。これまで空海に関する様々な展覧会が行われてきたが、今回は、そもそも空海が生涯をかけて伝えた密教とはなんだったのかということに焦点を当てて、まず密教の世界観を展示室で体感していただく。そのうえで、密教全体の歴史、そして空海の活動を紹介する構成を考えている」。

 展覧会は、「密教とはーー空海の描いた世界」「密教の源流ーー陸と海のシルクロード」「空海入唐と恵果との出会いーー胎蔵界と金剛界の融合」「空海の帰国 神護寺と東寺ーー密教流布と護国」「金剛峯寺と弘法大師信仰」の5章で構成される予定。

 その最大の見どころのひとつは、空海が制作に関わった現存唯一の両界曼荼羅であり、1793年、光格天皇の勅願で行われた修理以来約230年ぶりに修理を終えて初めて一般公開される国宝《両界曼荼羅(高雄曼荼羅)》(京都・神護寺)といえる。第4章で展示される同作は、大日如来の慈悲の世界を示す「胎蔵界曼荼羅」と、悟りと即身成仏への道を説く「金剛界曼荼羅」の2幅からなり、いずれも約4メートル四方の大きさを誇るものだ。

国宝 両界曼荼羅(高雄曼荼羅)のうち金剛界 平安時代(9世紀) 京都・神護寺
国宝 両界曼荼羅(高雄曼荼羅)のうち胎蔵界 平安時代(9世紀) 京都・神護寺

 第1章では、密教で説かれる5つの知恵を5体の如来で表す国宝《五智如来坐像》(京都・安祥寺)や、重要文化財《大日如来坐像》(和歌山・金剛峯寺)、重要文化財《不動明王坐像》(和歌山・正智院)など、密教の尊像や絵画を通じてダイナミックな展示空間をつくり上げる予定だという。

国宝 五智如来坐像 平安時代(9世紀) 京都・安祥寺

 また、陸のシルクロードだけでなく、海のシルクロードにも目を向けてインドから中国を経由し、そして日本に伝えられた密教の源流を探ることも本展の特徴のひとつだ。この海のシルクロードを示す重要な事例としては、インドネシア・ガンジュクから出土され、本展に向けて奈良国立博物館の協力によって修理されたインドネシア国立中央博物館所蔵の《金剛界曼荼羅彫像群》(10世紀)が日本で初めて公開される。また、長安で密教を学んだ空海が「目の当たりにしたかもしれない」とされる、中国・西安碑林博物館所蔵の《文殊菩薩坐像》(8世紀)も、本展で見ることができる。

金剛界曼荼羅彫像群(ガンジュク出土)のうち大日如来 10世紀 インドネシア国立中央博物館
文殊菩薩坐像(安国寺出土) 中国・唐(8世紀) 中国・西安碑林博物館

 奈良国立博物館の斎木が話したように、密教のルーツを理解したのち、本展の後半では空海が学んだ密教にフォーカスを当てる。

 第3章では、荒れ狂う海を遣唐使船に乗って唐に向かう空海の姿が描かれた重要文化財《弘法大師行状絵詞 巻第三》(14世紀)のほか、国宝《金銅密教法具》(9世紀)、国宝《錫杖頭》(9世紀)、国宝《諸尊仏龕》(8世紀)など、空海が唐より請来した密教独特の仏具や品々を楽しむことができる。

国宝 金銅密教法具 中国・唐(9世紀) 京都・教王護国寺(東寺)
国宝 錫杖頭 中国・唐(9世紀) 香川・善通寺

 帰国した空海は、神護寺を拠点に密教の流布を行い、多くの僧侶たちに密教を伝授した。第4章では、『金剛般若経』の経題について空海が解説した草稿の残巻や、密教の伝授儀礼、灌頂を受けた人々の名薄など神護寺や東寺に関わる重要な史料を中心に、帰国後の空海の精力的な活動を紹介する。

国宝 風信帖 平安時代(9世紀) 京都・教王護国寺(東寺)

 「当時の仏教界で重要な役割を担うようになっていった空海だが、密教を日本に広め、国や人々を救い守りたいという思いのいっぽう、静かな地で修行したいという願いも持ち続けていた」(斎木)。こうした空海は修行の途中で理想の地・高野山を見つけ、朝廷の許可を得てそこに金剛峯寺の建立に着手する。第5章では、高野山に伝わる空海にまつわる品々や、いまも続く弘法大師・空海に対する信仰を紹介する。

 また、奈良国立博物館館長・井上洋一は本展の開催にあたり、次のような期待を寄せている。「混沌とした世界情勢に不安を感じる今日、本展を通して多くの方々がすべての人々の救済を願った空海の世界に立ち入ることで、人間、そして社会のあり方を改めて考え直す機会になれることを願っている」。

編集部

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