京都を代表する寺院「東寺」に伝わる文化財の全貌を紹介する展覧会として、開幕前より高い注目を集めてきた特別展「国宝 東寺ー空海と仏像曼荼羅」が東京国立博物館で3月26日、スタートした。
東寺が1200年にわたり、空海の教えとともに守り伝えてきた至宝が未だかつてない規模で集まる本展は全4章からなる。
第1章の「空海と後七日御修法(ごしちにちみしほ)」では、中国に留学して密教を学び、帰国後、真言宗を開いて東寺や高野山を拠点に密教を広めた空海と、その空海が始めた「後七日御修法」を紐解いていく。
天皇の安寧や国家安穏を祈る秘法を修する、年に1度の儀式「後七日御修法」。これは本来非公開の儀式だが、会場では、実際の儀式で使われていた《五大尊像》や《十二天像》といった平安時代の仏画や仏具とともに堂内の再現を試みる。
煌煌とした金色が目を引く《金銅密教法具》は、金剛盤の上に五鈷鈴と五鈷杵を据えた密教法具のセット。密教ではこうした組法具が修法壇に置かれたが、この法具は、空海が中国から帰国するに際し、師の恵果が授けた法具類の一部と考えられたものだという。空海請来の霊物として尊崇され、現在もなお、大阿闍梨の道具として重要視されている。
また、本章では空海の貴重な筆跡も見ることができる。空海から最澄に宛てた3通の書状を貼り継いだもので、第一通書き出しの「風信雲書……」の文言から「風信帖」の通称を持つこの筆跡は、平安時代仏教史の基本史料として貴重であるとともに、書道史上も古来珍重されてきたものだ。
空海が主導した真言密教とはどのようなものだったのか? 第2章の「密教美術の至宝」では、造形や儀礼、荘厳の仕方において、それまでの仏教教団とは大きく異なる形式をとる真言密教にフォーカスする。
真言密教が重視するのは、大日如来を中心とした多くの如来、菩薩、明王、天などを集合的に描くことで密教の世界観を表した《両界曼荼羅》や、如来、菩薩などの姿形や手で結ぶ印(いん)の形など、細かな規則を図示した図像。
本章でとくに注目したいのは、宮中真言院で使用されたという伝承から「伝真言院曼荼羅」の名称でも知られ、近年、修復銘から東寺の西院で使用されていたことが判明した《両界曼荼羅図》(西院曼荼羅〈伝真言院曼荼羅〉)だろう。表情や体軀の描写、強い暈取りなどにインドの影響が強く表れるこの曼荼羅図は、現存最古の彩色でもある。(展示期間:4月23日〜5月6日)
そして、中国・唐時代につくられた異色の毘沙門天《兜跋毘沙門天立像》。腰が高い細身のスタイルと、中央アジア風の甲が特色のこの像は日本でも各地で模刻がつくられるなど信仰を集めたが、第3章「東寺の信仰と歴史」ではこうした立像をはじめ、空海ゆかりの舎利信仰、八幡信仰を伝える遺品、『東宝記』に代表される書跡や古文書といった、東寺の信仰と歴史を今日に伝える宝物の数々が集まる。
そして本展のクライマックスであり一番の見どころとなるのが、4章の「曼荼羅の世界」だろう。空海が密教の教えを視覚化するために構想した東寺講堂の「立体曼荼羅」。これは、平安時代前期における密教彫刻の最高傑作とも言える仏像群であり、21体の仏像から構成される立体曼荼羅のうち、本展では史上最多の15体が出品される。
なかでも、空海の時代に作られた国宝11体は、本展ではそのほとんどが全方位360度から鑑賞できるという画期的な展示方法が魅力。
東京国立博物館 特別展室長の丸山士郎が「精悍な顔立ちが人気を呼んできました」と話す《帝釈天騎象像》や、「表現の頂点とでも言えるような恐ろしい表情が特徴」と言う《持国天立像》など、様々な角度からその表情と造形を眺めたい国宝が勢揃いする会場は、壮観な眺めとなっている。
また、5体すべてが現存し、台座の馬や獅子まで制作当時の姿を伝えるのは貴重だという、5体1組の《五大虚空菩薩坐像》もまとまった形で展示される。
東寺講堂の立体曼荼羅が史上最大規模で東京に集まり、それらをより多角的に鑑賞でいる本展は、空海の世界の迫力に触れるとともに、新たな魅力を発見する機会になるだろう。