長崎・爆心地公園に被爆者の声を蘇らせる。竹田信平が「声紋源場」プロジェクトの公開制作を実施

現在デュッセルドルフとメキシコ・ティファナを拠点に制作、研究、執筆などを行う竹田信平が、長崎爆心地公園の地面に被爆者たちの声を蘇らせるプロジェクト「声紋源場」の公開制作を行う。期間は7月13日〜8月7日。

竹田信平《アルファ崩壊#3Phonology of U238 and Pu239》の制作風景(CENART、メキシコシティー、2011) (C) Shinpei Takeda

 2006年から、世界中に離散した被爆者たちの生の「声」を収集してきたアーティスト・竹田信平。竹田は戦後75年の節目となる今年、長崎の爆心地公園を舞台に、プロジェクト「声紋源場」の公開制作を行う。

 竹田は1978年大阪生まれ。現在デュッセルドルフとメキシコ・ティファナを拠点に制作、研究、執筆活動を行う。2001年から核軍縮や被爆者といったテーマを扱い、ドキュメンタリー映画『ヒロシマ・ナガサキ・ダウンロード』(2011)や、単著『アルファ崩壊:原爆の記憶を現代アートはどう表現しうるか』(現代書館、2014)などを発表。近年は個展「竹田信平 アンチモニュメント」(長崎県美術館ほか、2015〜18)を開催したほか、展覧会「Japan Unlimited」(Museumquartier Q21 Freiraum、ウィーン、2019)に参加。

「竹田信平 アンチモニュメント」展(長崎県美術館、2015)での「アルファ崩壊」展示風景 提供=長崎県美術館 (C) Shinpei Takeda

 そんな竹田が2010年から取り組んできたのが、世界中に離散した被爆者たちの声を視覚化させるプロジェクト「声紋源場」だ。竹田は被爆者たちを訪ね歩き、集めた声をコンピューター解析を通して「波長」として視覚化。これらを「声紋」として地面や布面、空間に書き写し、ときに解体し、再び織り込んだインスタレーション「α崩壊」シリーズとして発表した。

 今回竹田は、プロジェクトの原点となる長崎に立ち返り、かつてない規模で「声紋」を書き写す公開制作を実施する。加えて、デュッセルドルフ工科大学と共同で、AR技術を用いたスマートフォンアプリも開発。現場では実際に「声紋」から被爆者の声を聴くことができるほか、バーチャル空間に普段見えないものが浮かび上がる。

爆心地公園の完成イメージ図 提供=竹田信平 (C) Shinpei Takeda

 そして、公共空間のモニュメントが歴史の風化を目的に建てられたものでありながら、時代のうねりに翻弄された個人の物語を埋没させることを示唆するように、原爆が投下された8月9日の直前、7日には、竹田と長崎市民の手によってすべての「声紋」が消し去られる。

 戦後日本社会が蓋をし続けてきた声の語り主と、その延長線上に立つ私たちの「いま」を強烈に浮かび上がらせる「声紋源場」プロジェクト。またサイドイベントとして、記憶の継承・忘却、モニュメント/アンチモニュメント、原爆表象と現代アートなどをテーマとしたオンラインの対談も実施(完全予約制)。日程など詳細は、順次ウェブサイトで公開される。

編集部

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