MISATO ANDOが巡る、コシノヒロコのなかに広がる「ジャングル」の正体【2/3ページ】

思考回路や実験の軌跡をたどる

 絵画と同様に、膨大なコレクションピースで埋め尽くされる空間も本展の見どころだ。立体裁断によってかたちづくられた衣装には、布を身体に沿わせることで生まれる膨らみやひだによって硬さと柔らかさが表現される。素材は視覚的な柄やテクスチャーとしてだけでなく、ショーの場で音を響かせ、空間にリズムを生むものとしても扱われてきた。服そのものをパフォーマンスの装置へと変える、コシノらしい試みである。

チャプター1「原体験と想像力─コシノヒロコの世界」では、ドレス、日本画、ペインティング、歌舞伎の舞台幕、タペストリーなどコシノが手がけてきた多様な作品群が一堂に会する
チャプター4「テキスタイルへの情熱─創作の核心」では、コレクションに触れることができる

 コシノの作品に実際に触れられる展示室もある。触れてみると、繊細に見えた生地が意外にやわらかかったり、強い弾力を持っていたりすることがわかる。視覚だけでは捉えきれない情報が、手触りから立ち上がるのだ。ANDOもコシノの作品に触れ、「ただ眺めているだけではわからない意外な感触や、素材ごとのこだわりが伝わった」と振り返る。

 ANDO自身、近年は柿渋を用いてキャンバスを染めている。経年によって色が変化する素材を扱うなかで、布が時間を含むことに関心を寄せてきたという。そんなANDOはコシノの作品に触れ「キャンバスの布からもっと冒険してみたい」と、今後の制作への意気込みを口にした。布地も模様も、服を構成するすべての要素が思いがけない方向へ展開していく。素材に触れることは、表現の可能性に触れることでもある。

壁一面に展示された正方形のドローイング群

 ANDOがとりわけ印象に残ったと話すのは、3色という制約のもとで描かれた正方形のドローイング群。作品の配置は時系列ではなくランダムだというが、ANDOは「この絵の次にあの絵を描いたのかな」と、コシノの気分や思考回路、実験の道筋を想像しながら見ることに楽しさを見出した。ANDO自身もドローイングを描きながら次の表現を探っていくからこそ、個々の作品を完成形として眺めるのではなく、ひとつの絵から次の絵へとつながる制作の流れを追うように鑑賞したという。

アーティストのマティルド・ドゥニーズとのコラボレーション作品

 フランス・パリを拠点に活動するアーティスト、マティルド・ドゥニーズとのコラボレーションもまた、鑑賞者の想像力を喚起する作品だ。コシノが過去のコレクションで使用したテキスタイルと、コレクション作品をドゥニーズに送り、ドゥニーズからはそれを取り入れた立体作品が送り返される。そんな往復書簡のような手法から生まれた本シリーズを、ANDOは「空想上の生き物のための衣服にも見える」と話す。また、「どんな生き物が着るのかを妄想するのが楽しくて、一日中ここにいられる」と声を弾ませた。

編集部