──2025年からスタートした「Arthouse Project」は、どのような意図や位置付けを持つプロジェクトなのでしょうか。
大澤 東京建物ではアートの「空間を洗練させる力」に着目し、これまで様々なアートプロジェクトに取り組んできました。アートギャラリー「BAG-Brillia Art Gallery-」の運営や、アーティストとの出会いや応援を目的とした公募展「Brillia Art Award」の開催、若手アーティストの作品を中心とした現代アート展「Art in Tokyo YNK」の開催などです。
それら積み重ねのうえに、このたび始動したのが「Arthouse Project」です。企業、ブランド、実業家、教育・研究機関、国際カンファレンスなど、多様なプレーヤーとコラボレーションしながら、アーティストと社会の接点をつくっていこうとする活動です。
岡 アーティストの活躍を後押しするとともに、アートをまちに実装していくことで、都市空間におけるアートの新たな価値を見出そうというのが目的です。一般に「アートに触れる」といえば、美術館などで作品を鑑賞することをまずは思い浮かべますが、もっと能動的になれたら、より面白い。アートとつながる新しい切り口や動機を生みたいと模索したのです。
そこで、2025年に「Arthouse Project」の第1弾として、「ヒルトン京都」とのコラボレーション企画を実施しました。ホテルの顔ともいうべき5層吹き抜けのロビー空間を、アーティスト・南依岐さんの作品で彩り、併せてトークイベントなども開催するというものです。ホテル宿泊客のみならず、アートや文化に関心を持つ方をも誘引し、京都という土地の体験価値向上を目指しました。

──コラボレーションの相手としてホテルを選んだのはなぜですか?
田中 ヒルトン京都とのコラボレーションで狙ったのは、まずアートによってホテル空間の価値を上げること。また、国内アートシーンが抱える「グローバルと接続しづらい」という課題、この突破口をつくりたいとの思いもありました。ヒルトン京都は宿泊客の半数以上が外国人であり、日本および京都の文化を求めている方が多いです。そうした方々はアートとの親和性が高いはずで、宿泊動線にアートを置くことでなんらかの化学反応が起こる可能性は高いと考えました。
実効性を高める方策として、アートフェア「Art Collaboration Kyoto(ACK)」との戦略的連携もとりました。ヒルトン京都が昨年11月に開かれたACKのホテルパートナーとなったこともあり、今回の「Arthouse Project」企画の時期をそれに合わせたのです。コラボレーション企画を実施しているあいだ、ACKのアンバサダーや名だたるコレクター、キュレーターがホテルに多数来訪し、展示作品を見たり、関連イベントに参加いただけたりしました。波及効果は絶大だったように思います。
岡 コラボレーション企画開催中には、ホテル1階のバーエリアを一部貸し切り、プロデューサーのAny 田中さんや実業家の方、そしてアーティストが登壇する「アーティストトーク」を開催しました。予約不要でふらりと立ち寄れるかたちとしたので、新しいエクスペリエンスをゲストに提供できたのではと思います。企画を通じて、ホテル内で様々な交流が生まれたはずです。


──プロジェクトを進めるうえでの「難所」はありましたか。
大澤 ヒルトン京都は2024年9月に開業したばかり。アートとコラボレーションしましょうという企画をこちらから提案した当初は、じつはかなりナーバスになっていました。それはそうで、橋本夕紀夫デザインスタジオが手がけた内装デザインはたいへん完成度が高く、ロビーラウンジは一番のフォトスポットでもありましたから。そこに作品を置けば、内装の雰囲気や人流を乱す恐れもありますし、壁面や床が傷つくリスクだってゼロではありません。先方に安心してもらうために、時間をかけて話し合いを重ねました。
その結果、最終的には総支配人もいいアートがホテル内で観られるなら、それ自体が旅の目的になり得るだろうと賛成してくださいました。ホテル側としても、京都にたくさんホテルがあるなかで、差別化を図るのは喫緊の課題です。アート企画をすることで個性を打ち出せて、ゲストの満足度も上がり、ブランド価値向上につながるだろうと考えていただけたのだと思います。

田中 プロジェクト成功のカギを握るのは、アーティストの選定でした。作品や展示のクオリティを保ちながら、ホテル空間の価値やホスピタリティも高める必要があったからです。その点、南依岐さんは日本のみならず米国などでも大いに注目されており、複数の著名なコレクターのコレクションにも作品が収蔵されています。
彼の絵画は一見ポップで楽しげですが、その奥には緻密な構造があります。彼は制作の中で「アルゴリズム」という言葉を用い、独自のルールに沿って画面を組み立てていきます。その思考は線や形となって作品の中に組み込まれ、カラフルな色彩の層の下にも重ねられていきます。見えている部分だけでなく、そうした構造が画面全体を支えており、複雑な思考を一枚の抽象画として成立させながら、探求しているのは「芸術の核」とも言えるものです。彼の作品の世界観は、アートを起点に多様な領域を交差させながら新しい価値を都市に広げていこうとする「Arthouse Project」の方向性と、想像以上に響き合っていました。

──「第1弾」を実施してみて、どのような効果と成果があったでしょうか。
岡 実際の展示は、たいへん映えるものとなりました。間接照明が美しくリッチな雰囲気漂うヒルトン京都のロビーラウンジに、南さんのカラフルな作品を配した結果、ビューポイントが増えてより奥行きのある豊かな空間が生まれました。南さんの絵画は厚塗りで絵具の角が立っている等、物質的な存在感も抜群です。チェックインの待ち時間や荷物の整理時間など、ロビーで過ごすささやかなひとときを、南さんの作品がより豊かな時間へと彩っていたのではないかと思います。
「Arthouse Project」が展開されたことで、ホテルのコンシェルジュと来訪客のあいだで作品についての会話が弾んだり、アーティストトークのタイミングでホテルに帰ってきたゲストが興味を持って声を掛けてくださったりと、コミュニケーションが確実に増えたとも聞きました。

田中 作品が多くの人の目に触れるのはアーティストとしてはうれしいかぎりですし、ホテル側としても、新しい客層を呼び込めたり、交流の輪が広がったりと大きなメリットがありました。コラボレーションによって、関係するすべての人に相乗効果を生み出すことができました。ヒルトン京都からすれば初めての試みで不安もあるなか、私たちとともに主体的に取り組んでいただいたことで、大きな成果につながったのは何よりでした。
ホテルとアートの関係でいえば、フロアを貸し切ってアートフェアを開く例は全国で増えていますが、今回の「Arthouse Project」のように関係者が領域を横断しながら能動的・複合的に取り組むケースはまだ希少だと思います。これからこのような好循環を生む事例をどんどん増やしていきたいですね。アーティスト、アート関係者、企業、自治体などは、それぞれ独自のリソースやネットワークを持っています。都市を舞台にそれらを組み合わせて、「新しい方程式」をつくると、アートの世界にも産業界にも地域社会にも、これまでにない機会が創出されていくはずです。

──今後のプロジェクトの方向性は。
大澤 ホテルとがっちりとタッグを組んでプロジェクトを推進する今回の経験は、私たちにとっても得難いものとなりました。今後はホテルにかぎらず、あらゆるまちづくりの文脈のなかで、企業やブランドなど多様なプレーヤーとのコラボレーションを進めていきたいです。私たち東京建物は、「都市の価値をつくること」を使命と捉えています。高いクリエイティビティを有するアーティストやアート作品は、価値創出を考えるうえでこの上なく心強い存在。ぜひさらに広くアートとの関係性を深めていきたいです。
アートを通して実現する新しい価値創出のストーリーに、参加していただける企業・組織・個人の方々を、私たちは心から求めています。




























