「いよいよ具体的な数字が示された」
──今後のミュージアム運営を検討するうえで無視できないのが、今年公表された第6期中期目標(*2)です。ここでは、国立博物館・美術館の自己収入比率や来館者数について非常に高い目標が示されました。例えば展示事業の自己収入比率については最終年度までに65パーセント以上へ引き上げることが求められています。どのように受け止めていますか。
竹之内 率直に言えば、驚きはありませんでした。独立行政法人制度が始まった時点から、運営費交付金が将来的に減少していくことは想定されていました。もともと独立行政法人という制度そのものが、国がすべてを管理する仕組みではなく、民間的な発想や工夫を取り入れながら運営していくために導入されたものだからです。
ただ、今回の中期目標で特徴的なのは、それが具体的な数字として示されたことです。自己収入比率や来館者数といった目標が明確になったことで、国が博物館に期待する役割もより鮮明になったと言えるでしょう。近年、文化は観光政策とも密接に結びついています。インバウンドの拡大とともに、博物館や美術館は文化施設であると同時に、観光資源としても位置づけられるようになりました。今回の中期目標には、そうした国のメッセージも込められているように感じます。

──いっぽうで目標達成は簡単ではありません。
竹之内 もちろんです。数字だけを見れば、来館者を増やす方法はいくらでもあります。しかし、それで来館者の満足度が維持できるのかという問題があります。例えば展示室にさらに多くの人が入ったとき、作品を十分に鑑賞できる環境を保てるのか。休憩スペースは足りるのか。動線や施設は対応できるのか。来館者数を増やすことと、質の高い鑑賞体験を維持することは、必ずしも同じ方向を向いているわけではありません。
だからこそ私たちは、「これだけの人を受け入れるためには何が必要なのか」という議論も同時に進めなければなりません。新たな施設整備が必要なのか、人員体制の強化が必要なのか。そうした課題も含めて社会に示していく必要があります。
──いまから振り返ると、「2038ビジョン」は将来構想であるだけではなく、中期目標への回答でもあるように見えます。
竹之内 私たちは中期目標を予見していたわけではありません。ただ、結果的に2038ビジョンで掲げた方向性は、今回示された課題に対するひとつの回答になっていると思います。「日本と世界をつなげること」「より多様な人々に開かれること」「来館者体験を向上させること」「文化財を守りながら持続可能な運営基盤を築くこと」──そうした取り組みを積み重ねていけば、結果として求められている目標にも近づいていけるはずです。
「TOHAKU OPEN PARK PROJECT」をめぐる議論は、しばしば芝生化の是非や景観の問題として語られてきた。しかし、今回のインタビューから見えてくるのは、それがたんなる空間改修計画ではないということだ。人口減少、インバウンドの拡大、文化施設を取り巻く環境の変化、そして国から示された厳しい目標。そうした状況のなかで、東京国立博物館は「文化財を守るために変わる」という難しい選択を迫られている。今回のインタビューで語られた「東京国立博物館2038ビジョン」は、本館100周年に向けた計画であると同時に、人口減少社会において国立博物館がどう公共性を維持していくのかを問う試みでもある。「TOHAKU OPEN PARK PROJECT」をめぐる議論は、その長い挑戦の始まりに過ぎない。東博の覚悟が本当に問われるのは、これからなのだろう。
*2──文化庁および文部科学省が所管する独立行政法人国立美術館と国立文化財機構が令和8年度(2026年度)からの5年間で達成すべきものとして策定。展示事業の自己収入比率を最終年度までに65パーセント以上に引き上げること、次期中期目標期間中には、法人全体で自己収入比率100パーセントを目指すことが明記された。また中期目標期間の4年目において、自己収入額の割合が4割を下回っている場合、「社会的な役割を十分に果たせていないとみなされた館」とされ、再編の対象となりうるとされている。



















