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アーティストを街から追い出さない──ニューヨークが文化に500億円を投じる理由とは?【5/5ページ】

東京が学ぶべきは「500億円」という金額ではない

──今回のニューヨーク市のケースから、日本や東京が学べることがあるとすれば、どのような点でしょうか?

作田 まず、「何を文化政策の目的にするのか」が比較的明確に打ち出されているところです。今回は、アーティストの制作や生活を守り、都市からの流出を防ぐという目的がはっきりしている。そして、それを実現するために文化政策だけで完結するのではなく、住宅政策や交通政策など、ほかの公共政策とつながっているわけです。これは非常に参考になると思います。

 また成功した作品や、すでに成功しているアーティストだけを支援するのではなくて、その手前にある土壌の部分、あるいは源流の部分に近いところから支えていくことが重要です。

 そう考えると、生活環境や制作環境への支援は非常に大切です。環境がなければ、そもそも良い作品も生まれてこないわけですから。

──資金の大きさだけではなく、政策の設計という点でも日本が学べることはありますか?

作田 行政の予算はどうしても単年度になりがちです。ただ、ニューヨークの場合は、一部の支出を翌年度以降も継続する前提で予算計画に組み込む「ベースライン」という考え方があります。将来年度の支出を法的に保証するものではありませんが、毎年すべてをゼロから積み上げる場合に比べて、一定の継続性を持たせやすい。そうすると、住宅、労働、福祉といったほかの分野と「次に何を一緒にできるか」という話もしやすくなると思います。

 施設や不動産、フェアな契約や報酬など、アートの世界には様々な問題があります。文化行政が民間団体やアーティストの働き方とつながり、働き方そのものの改革につながっていくようなイメージが重要なのではないでしょうか。

──アメリカでは、文化行政と労働行政を結びつけるような動きもあるそうですね。

作田 例えばシカゴでは、文化行政と労働行政をつないで、アートをつくる仕事、アーティストやアートに関連する仕事をきちんと「労働」として捉える取り組みを進めています。現状では、既存の労働法やフリーランス保護の周知・研修などが中心ですが、行政がそこに本気で取り組むことで、今後、新しい政策が出てくる可能性もあると思います。

──文化と労働行政が一緒になるというのは、ありそうであまりない発想ですよね。

作田 クリエイティブな仕事をしている人は、フリーランスだったり、複数の仕事を兼ねていたりすることが多いですよね。既存の労働行政の考え方とは少し違ういっぽうで、ある意味では、AIが台頭している現在だからこそ考えられる、「未来の働き方」を先取りしてきたとも言えると思います。

 そうした意味でも、今後は芸術活動をきちんと労働行政のなかでも捉えていくことが重要です。それによって、より良い労働環境や選択肢をつくれる可能性があります。

──アーティスト特有の問題もあります。

作田 例えば、大きな絵を描くなら広い場所が必要ですし、作品によっては専用の制作スペースも必要です。場所の問題だけでなく、報酬や契約、支払い、税金など、アーティスト固有の課題もあります。

 そうしたものを労働政策として扱っていくことで、これまでアーティストが一方的に背負ってきたリスクを、少しずつ改善していくことができるのではないでしょうか。

──アニメやゲームなども含め、文化産業全体の労働環境を考えるうえでも重要な視点ですね。

作田 そうですね。かつて思い描かれていた「アーティスト像」と、現実にアーティストが置かれている生活環境にはかなりギャップがあります。先ほどの「400ドル程度の急な出費にも対応できない」という話もそうですが、そうした現実が可視化されてきたことで、いま改めてアーティストやクリエイターの働き方を見直すきっかけになっているのは間違いないと思います。

編集部