世界最大級のアート市場、でもアーティストは暮らせない
──政策の方向性として「アーティストの生活を支える」ことが重視される背景には、ニューヨークの生活費の高騰があると思います。実際、アーティストを取り巻く環境はどう変化しているのでしょうか?
作田 もっとも大きいのは、住宅費と制作場所のコストです。ニューヨークはアートの中心地ですから、世界中から人が集まり、そこで活動することで得られるチャンスも大きい。いっぽうで、アーティストの場合は美術大学の学費や学生ローンの返済もあります。複数の仕事をしなければならず、制作時間自体が失われていくこともある。そうした負担が、ニューヨークで得られるチャンスと天秤にかけても非常に重くなってきています。
──クリエイティブ・リビルド・ニューヨーク(*1)による調査でも、かなり厳しい数字が出ていますね。
作田 ニューヨーク州で1万3000人以上から回答を集めた調査では、回答者の半数以上の世帯収入が2万5000ドル未満で、62パーセントは400ドル程度の急な出費にも貯蓄だけでは対応できないという結果でした。
もちろん代表調査ではないので、この比率をそのままニューヨークのすべてのアーティストに一般化することには注意が必要です。ただ、クリエイターの生活基盤の弱さがかなり可視化されているとは言えると思います。

──ニューヨークを拠点とする中堅アーティスト、ジョシュ・クラインも、批評誌『October』195号(2026年2月)に掲載された論考「ニューヨークの不動産とアメリカ美術の崩壊」で、家賃や不動産価格の高騰を強く問題視しています。
作田 クラインの論考がインパクトを持った理由のひとつは、彼が若手ではなく、すでに美術館で個展を開くような地位を築いた中堅作家だということです。そういう人ですら、ニューヨークで制作し、生活することが苦しいと語っている。
つまり、アート市場が大きい都市であることと、アーティストが住み続けられる都市であることが一致しなくなっているんです。ジョシュ・クラインひとりの感覚というより、近年の生活実態調査とも重なっている問題だと思います。

*1──ニューヨーク州のアーティストと芸術・文化組織を支援するため、2021年から2024年にかけて実施された総額1億2500万ドル規模の大型支援イニシアチブ。



















