ニューヨーク市は2026年6月30日、DCLA(Department of Cultural Affairs=ニューヨーク市文化局)への予算として、過去最高となる3億2380万ドル、およそ500億円を計上した。前年度の採択予算から約8パーセントの増額となる。あわせて、苦境にある文化団体を支える緊急支援基金「Cultural Stability Fund(カルチュラル・スタビリティ・ファンド)」も新設された。
こうした政策を率いるのが、ゾーラン・マムダニ市長だ。ニューヨーク市初のイスラム教徒かつアジア系の市長で、父は学者、母は映画監督、自身は元ラッパーという経歴をもつ。「民主社会主義」を掲げ、文化や教育、交通などの公共サービスを一部の富裕層のためだけのものではなく、市民全体の権利として捉える姿勢を打ち出している。なぜニューヨークはいま、これほど大規模な公的資金を文化に投じるのか。そして、日本がそこから学べることとは何か。
巨額のニューヨーク市の文化予算
──まず、DCLAとはどのような組織なのでしょうか?
作田知樹(以下、作田) ニューヨーク市の文化行政を担う部局です。非営利文化団体への助成がひとつの大きな柱ですが、それだけではありません。市が所有する文化施設を運営するNPOへの支援や、施設そのものの改修・整備、パブリック・アートの設置など、かなり幅広い領域を扱っています。
日本で「この組織にあたる」と一対一で対応するものは、あまりないと思います。DCLAの前身となるOffice of Cultural Affairs(OCA)が市長室内に設置されたのは1962年で、連邦政府の芸術支援機関である全米芸術基金が設立された65年よりも早い。ニューヨークでは、かなり以前から総合的な文化行政を行ってきたということです。
──今回の「過去最高額の予算」というニュースを聞いたとき、率直にどう思いましたか?
作田 最初は「さすがニューヨークだな」と思いました。ただし、マムダニ市長になって突然文化予算が倍増した、というような話ではありません。前任のエリック・アダムズ市政でもDCLAの予算はかなり増えていて、今回はそこからさらに上積みされたかたちです。
ですから、予算額そのもの以上に重要なのは、マムダニ市政がそれを「生活できるニューヨーク」「アーティストが活動を続けられる都市」という問題と結びつけていることです。文化政策をアーティストの生活環境の問題として捉えている点に、大きな特徴があると思います。
──3億2380万ドルという予算は、どれほど大きいのでしょうか?
作田 アメリカ国内で比較するとわかりやすいでしょう。連邦政府の芸術支援機関であるNEAの2026会計年度の予算は2億700万ドルです。それに対して、ニューヨークというひとつの市のDCLAが3億2380万ドル(2027会計年度)なので、DCLAのほうが約1.6倍あります。
もちろん両者は役割も会計年度も違うため、単純比較はできません。それでも、ひとつの都市の文化行政としてはかなり大きな規模です。長い公的文化支援の蓄積の上に、今回の増額があると考えるべきだと思います。
*1──本収録後の10月2日、ニューヨーク市はDCLAを通じた個人アーティストや小規模非営利団体等への助成について、従来の最大5000ドルから最大1万ドルへ引き上げることを発表した。助成上限の引き上げは約20年ぶりとなる。あわせて、DCLAが運営する「Materials for the Arts」を通じ、対象となるアーティストが制作資材を無料で受け取れる仕組みも追加された。https://www.nyc.gov/mayors-office/news/2026/10/mayor-mamdani-doubles-grants-for-new-york-city-artists-from--5-0
























