04. ロンドン・イギリス 選・文=齋木優城(キュレーター)
昨今の情勢下で、海外の動向を身近に感じる機会は限定的になっている。ロンドンにおいても政治や経済に対する不安は広がっているが、そんななかでもこの場所に集まり、学び、結束しあうアーティストたちの姿があることも事実である。ロンドンには、大英博物館など大規模なミュージアムが多く存在し、観光名所となっている。しかし、中心部から少し足を伸ばせば、この街に暮らす人々の生活に寄り添ったアートシーンが見えてくるだろう。
現地で訪れるべき美術館・ギャラリー・エリア
Barbican Centre
「バービカン・センター」は、ロンドン中心部にある巨大な集合住宅「バービカン・エステート」の敷地内にある文化複合施設である。現在、アートギャラリーではコロンビア人アーティスト、ベアトリス・ゴンサレスの英国初個展(〜5月10日)が開催されており、毎週一部時間帯には「Pay What You Can(自分の支払える金額に応じて入場料を決める仕組み)」が導入されている。剥き出しのコンクリートが特徴的なブルータリズム建築もみどころ。


Gasworks&South London Gallery
Gasworksは、展示スペースとアーティスト・イン・レジデンスプログラムを提供する非営利美術団体。英国内外の若手作家に張るアンテナは随一で、若手作家にとって登竜門的な存在のスペースである。また、South London Galleryでは、ロンドンの美術館でまだ個展を開いたことのない作家を支援しており、住民たちが無料で質の高い現代アートに触れられる機会を創出している。帰り道には、ギャラリーを併設したカフェバーのPeckham Pelicanに立ち寄れば、アーティストレクチャーやオープンマイクのイベントに出会うかもしれない。


滞在の楽しみ方
ロンドンでは、テムズ川を境に街の雰囲気ががらりと変わる。Gasworksはポルトガル語話者が多く「リトル・ポルトガル」とも呼ばれるランベス地区に、South London Galleryはナイジェリア系が多く「リトル・ラゴス」とも呼ばれるペッカム地区にある。アートスポットをめぐる道すがらサウスイースト・ロンドンの商店街を歩けば、商店に並ぶ色鮮やかなテキスタイルや、アフリカ料理レストランの賑わいに目が奪われる。ここで見ることができるのは、同じ国のなかで様々な国籍・文化的背景を持つディアスポラたちが地元で独自の豊かなコミュニティを築いている光景だ。このことは、アーティストたちにとっても大きなインスピレーションとなっている(*1)。この重層性を体験することこそが、ロンドンで生まれるアートシーンを理解するための重要な補助線となるだろう。

*1──例えば、現代イギリスを代表する作家のひとりであるインカ・ショニバレCBEの作品には、サウスロンドンの下町でよく見かける「ダッチ・ワックス・プリント」が頻繁に使用される。この布は、もともとはインドネシアの伝統的なろうけつ染め「バティック」の技法にルーツがあるが、19世紀にオランダがその生産を機械化し輸出したことで、西アフリカや中央アフリカで人気を博すようになった。ショニバレはこの布をアジアとヨーロッパ、そしてアフリカにおける複雑な植民地主義の影響と、矛盾に満ちた文化的混淆の象徴として捉えている。Mehrez, A. (2014). ‘The British Library’, Tate.https://www.tate.org.uk/art/artworks/shonibare-the-british-library-t15250 [Accessed 12 Apr. 2026].
さいき・ゆき
東京藝術大学大学院美術研究科芸術学専攻修士課程およびGoldsmiths, University of London MA in Contemporary Art Theory修了。国立新美術館学芸課研究補佐員、Avant Arteなどを経て現在はThe Chain Museumが運営する「Gallery 舞台裏」キュレーター。



















