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2017.5.16

【ギャラリストの新世代】KOSAKU KANECHIKA 金近幸作

都内の新たなアートスポットとなった天王洲のアートコンプレックスに今年3月、KOSAKU KANECHIKAが開廊した。若手作家の作品を中心に、絵画、陶芸、立体など多彩なジャンルの作品を扱うギャラリー。代表を務める金近幸作にインタビューを行った。

文=野路千晶

金近幸作 ギャラリー「KOSAKU KANECHIKA」にて Photo by Chika Takami
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作家が育つ場所

美術への関心の芽生え

 東京、天王洲の「TERRADA ART COMPLEX」。児玉画廊|天王洲、URANO、山本現代、ユカ・ツルノ・ギャラリー、SCAI PARKなどが入居するこのアートコンプレックスに今年3月、KOSAKU KANECHIKAがオープンした。代表を務めるのは、小山登美夫ギャラリーに約14年間勤務、ディレクターを経てこの度独立した金近幸作だ。

 山口県に生まれた金近は大学進学を機に上京。ファッションや生活工芸品への関心の延長線上で、美術館やギャラリーを巡るようになる。「もともと美術への知識はほとんどなく、ギャラリーの存在も上京後初めて知ったほど。そうしてギャラリーを訪れるうちに、写真から絵画、美術全般へと興味が出てきました」。

 小山登美夫ギャラリーやタカ・イシイギャラリーといったギャラリーが新進ギャラリーとして続々オープンしていた90年代半ば。金近は雑誌で展覧会情報をチェックしては、ギャラリーを訪れる日々を過ごした。「できるだけ多くの作品を見るようにしていました。そのことによって作品の見方を学んだ気がします」。

もともとは倉庫であった空間を生かしたギャラリー空間は、天井高約4メートルのゆったりとした雰囲気が特徴的

ギャラリーのもつ様々な役割

 大学卒業後は、GALLERY 360°を経て小山登美夫ギャラリーに在籍。当時ギャラリーの取り扱い作家であった奈良美智の担当スタッフとして、個展にあわせて国内外の美術館を訪れるなど、充実した日々が続いた。「作家を取り囲むマーケットが成立することによって作家の評価もあがること、それが彼ら自身を育てることにつながることなど、現場で作家と密に関わらせてもらうことで初めてわかることがたくさんありました。同時に、ギャラリーは作品を売買するだけの場だけではないという、多様な側面にも気づくことができたように思います」。

 その後も若手作家らと関わり、彼らが育っていく姿をみるなかで、ゆるやかに独立を決心。20169月、銀座でのプレ展示企画を経て、20173月にギャラリーを正式にスタートした。オープニング企画は、花魁の高下駄に着想を得て制作した「ヒールレスシューズ」など、東西の文化を融合させた作品を手がける舘鼻則孝による個展。「カウンターに座って、来廊された方とダイレクトに接することができる時間が、いまは新鮮で楽しいです」と金近は話す。

取材時に開催していたのは、高下駄に着想を得た「ヒールレスシューズ」などを手がける舘鼻則孝の個展(4月28日まで)

国際的な活動を目指して

 KOSAKU KANECHIKAが目指すのは、作家たちが国内のみならず国外のマーケットへ進出する機会をつくること。「作家と一緒に作戦を練って、各々が国際的な活動ができるようになってほしいと思います。そして、彼らが海外のギャラリーで展示を行って、今度はそのギャラリーの現地作家を日本に呼ぶなど、パートナーシップから生まれるものを大切にしていきたいです」。

 ギャラリーでは今後、多種多様な人物・現象などが折り重なり絡み合うことでひとつの像を形成する精緻なドローイング作品などを手がける佐藤允(あたる)、陶芸への尊敬と探求を背景に、極彩色の色彩やメタリックな質感、独自の造形を特徴とする陶芸作品を制作する桑田卓郎、絵画表現の枠組みを通して二次元と三次元の境界を表す青木豊らの個展を予定している。

もっと聞きたい!

Q. ギャラリー一押しの作家は? 

 佐藤允さんです。内面を包み隠さず作品に反映する、生粋のアーティストだと思います。コラージュやドローイングのほか、最近は《Q1》のように少し立体感のある作品やペインティングなどの新しい展開も。5月には個展「求愛/ Q1」の開催を予定しています。

佐藤允 Q1 2017

Q. 愛用の一品は?

 独立に際して舘鼻則孝さんがつくってくれた名刺入れです。皮革の表面には世界各地で古代から存在、日本では七宝柄(しっぽうがら)と呼ばれ、ルイ・ヴィトンのモノグラムにも近似性が見られる模様が。東西の文化を作品に取り込む舘鼻さんの視点が反映されています。

 (『美術手帖』2017年5月号「ART NAVI」より)