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無権利者からアートを買ってしまったら? 日本・英国・香港におけるルールの違い【3/3ページ】

英国の場合:真の所有者を守るnemo dat原則

 英国は、日本とは正反対のアプローチを採る。基本原則は nemo dat quod non habet (自己の有しないものを与えることはできない)である。

 Nemo dat 原則のもと、無権利者からの買主は、原則として売主が有していた以上の権原(title)を取得できない(*12)。原則として真の所有者の権利が優先される。

 なお、英国にはかつて公開市場(market overt)という重要な例外があった。公開された市場で慣行に従って善意で購入した買主は、たとえ売主が無権利者でも権原を取得できるとされていた(*13)。しかし、この制度は盗品の流通を助長するとの批判を受け、1995年に廃止された(*14)。現在の英国では、公開市場の例外は存在しない。

 その結果、例えば、買主が善意・無過失で購入していても、作品が盗品であれば、真の所有者は返還を請求することができる。

香港の場合:英国法の流れを汲みつつ、公開市場を残した法域

 香港も原則としては英国と同じ枠組みであり、nemo dat 原則を採用している(*15)。

 もっとも、香港の特徴は、公開市場の例外を現在も維持している点にある。すなわち、商品が市場の慣行に従って公開市場において販売されたときは、売主の権原に瑕疵又は欠缺があることについて善意(without notice)、無過失(good faith)であった場合、買主は当該商品について有効な権原を取得する(*16)。つまり、香港では、売主が無権利者でも所有権を取得できる余地がある。何が「公開市場」に該当するかは個別判断であるが、伝統的にはオークションがその典型例とされてきた。

 国際的なアート市場の主要拠点であるロンドンと香港は、いずれも nemo dat 原則を採用しつつも、買主保護の幅という点では違いが残っている。

おわりに

 アート取引の現場では、作品の来歴(provenance)の確認が極めて重要である。日本では即時取得の余地があるとはいえ、「過失」の認定は個別の事実関係によるところが大きい。

 英国では、買主に落ち度がなくとも、真の所有者の請求が基本的には優先される。他方で、香港の公開市場の例外は、形式的には買主に有利な余地を残すものの、実際の射程は判例上必ずしも明確ではなく、これに過度に依拠して来歴調査を省略するのは現実的ではない。むしろ、来歴調査の重要性は法域を問わず高まっているといえるだろう。

*12──Sale of Goods Act 1979, s.21(1). 例外として、禁反言(estoppel)、商業代理人(mercantile agent)からの取引、取消可能な権原に基づく販売などがある。
*13──Sale of Goods Act 1979, s.22(1).
*14──Sale of Goods (Amendment) Act 1994.
*15──Sale of Goods Ordinance (Cap. 26), s.23.
*16──Sale of Goods Ordinance (Cap. 26), s.24は、「商品が市場の慣行に従って公開市場において販売されたときは、売主の権原に瑕疵又は欠缺があることについて善意で、無過失であった場合、買主は当該商品について有効な権原を取得する」と規定する。

編集部

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