2021年9月27日、平山郁夫、東山魁夷、片岡球子の版画作品の贋作を百貨店に売った著作権法違反の疑いで元画商と版画作家が逮捕された(*1)。この件に限らず、美術業界において贋作問題は根深い。市場に流通する美術作品の50パーセントが贋作とも推計されているくらいだ(*2)。
有名なギャラリーでも100パーセント安心できるわけではない。米国では、1846年創業で165年の歴史を持つ老舗ギャラリーであったノードラーギャラリーがジャクソン・ポロック、マーク・ロスコなどの作品の贋作を販売していたとして2011年に閉廊し、10件の訴訟が相次いだ(*3)。この事件は、贋作の販売金額が8000万ドルにも上り米国史上最大の贋作事件と言われている。
この事件を題材にしたドキュメンタリー「だましだまされアート界:贋作をめぐる物語」(2020年)もネットフリックスで配信されており、必見だ。
贋作の販売は、販売者が贋作と知りながら販売すれば著作権法違反や詐欺で刑事事件になり、処罰される(*4)。それでは買った作品が贋作だったと判明したとき、購入者はいったいどうなるのだろうか? じつは日本でも美術作品の贋作をめぐり多くの民事裁判が起こっている。いくつか紹介しよう。
ピカソの版画
ピカソのオリジナル版画と信じて購入した作品《パブロ・ピカソの道化師》が贋作であったとして買主(絵画、版画等の売買を業務とする会社)が売主の画廊に対して錯誤無効(現在の民法では錯誤取消し)を主張して代金の返還を求めた裁判がある(*5)。