略奪美術品は必ず返還されなければならないのか? 法域で異なる返還請求の行方

近年、ヨーロッパを中心に議論が活発化している略奪美術品の返還問題。当初の作品所有者から、なんらかの取引を経由して作品を保有する者に対する返還請求はできるのか?また国ごとの対応は? ライフワークとしてArt Lawに取り組む弁護士・木村剛大が法的観点から解説する。

文=木村剛大

エゴン・シーレ ワリー・ノイツェルの肖像 1912 出典=レオポルド美術館ウェブサイト(https://onlinecollection.leopoldmuseum.org/en/object/527-portrait-of-wally-neuzil/)
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 2023年1月26日から同年4月9日にかけて東京都美術館でエゴン・シーレの回顧展「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」が開催された(*1)。

「レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才」展示風景より、エゴン・シーレ《ほおずきの実のある自画像》(1912)

 本展でも展示された《ほおずきの実のある自画像)》(1912)は有名な作品だが、アート・ロイヤーには、この作品と対になると言われる《ワリー・ノイツェルの肖像》(1912)が知られている。この作品の所有権を巡って米国で訴訟が12年もの長きにわたり続いていた(*2)。

《ワリー・ノイツェルの肖像》を巡る訴訟