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音を奏でるのは誰か? タレク・アトゥイがテート・モダンで問い直す、創造と協働のかたち【2/3ページ】

素材が語り、楽器が旅をする

 《Hold》を構成する楽器には、それぞれに異なる来歴がある。入り口付近に響く長大な「カルナイ」は、ウズベキスタンの管楽器に着想を得たものだ。金属製の楽器に加え、ロンドンの建築家アーサー・マムー=マニらとの協働で、砂糖と竹の粉末を混ぜた素材を用いて巨大なホルンを3Dプリントした。砂糖は、製糖業によって富を築いたテートの創設者ヘンリー・テートの歴史も連想させる。素材の選択によって、造形と美術館の歴史が思いがけず接続される(*4)。

 韓国の職人ソク・ソとの協働から生まれた太鼓には、車のワイパー用モーターが打撃装置として転用され、養鶏用の保温ランプが皮の張りを保っている。会見でアトゥイが強調したように、この光はまず熱として働き、その機能が結果的に温かみのある景色をつくる。さらに、イッセイ ミヤケの近藤悟史らと開発した和紙と綿の布には炭素系の塗料が施され、湿度や気流、温度による電気的な変化が低周波の音に変換される。石もまた、その振動を身体で感じ取るための媒体となる。

韓国の職人ソク・ソとの協働から生まれた太鼓には、車のワイパー用モーターが打撃装置として転用され、養鶏用の保温ランプが皮の張りを保っている © Tate. Photo by Yili Liu

 彫刻が物体の配置によって周囲の空間との関係を生み出すとすれば、アトゥイはその関係を音の伝播と反響によって時間のなかに展開する。太鼓や管、石は造形物であると同時に、振動を生み、身体に伝える媒介でもある。響きがホールの奥行きを浮かび上がらせ、身体の位置によって聞こえ方が変わる。ここでは物質、建築、聴き手の関係そのものが、絶えずかたちを変える彫刻となる。

 注目すべきは、こうした楽器が一度きりの展示に属さないことだ。作家は会見で、楽器が特定の作品に「閉じ込められる」必要はないと語った。2025年の『フリーズ』誌での音楽家C.スペンサー・イェーとの対談でも、楽器を職人が反復して製作できることと、それらを活性化する作曲の固有性を区別している(*5)。完成した物体だけを作者の署名に回収せず、製作者の技術と演奏者の解釈を含んだ、更新可能な関係として作品を捉える姿勢がうかがえる。

反復しない作曲、演奏される建築

 空間を満たすのは、管に送り込む空気やモーターの打撃によって、そのつど生まれる響きだ。作家自身が約半年をかけて設計したソフトウェアが装置を制御し、マイクを備えた《Sunflowers》が周囲の音や来館者の声を拾い、加工して音響へと返す(*6)。アトゥイは会見で、その生成的な構成について明確に「AIではない」と述べた。あらかじめ指定された単純な反復でも、機械が自律的にすべてを決める仕組みでもなく、作家が緻密に組み立てた条件から、毎回異なる響きが生まれる。2016年の《The Reverse Collection》では演奏を録音して展示音響に重ね、時間とともに音の層を増やした。それに対して今回は、演奏や周囲の環境そのものが、つねに現在進行形で音響の構成に参加している。

タレク・アトゥイ《The Drift》(2023-24)。IACヴィルールバンヌの展示風景より Photo © Thomas Lannes

 会期中には国内外の音楽家も加わり、各自の方法でこのシステムを演奏する(*7)。電子音楽、民俗音楽、ロックなど、ジャンルは問わない。重要なのは、特異な反響を持つホールに耳を傾け、いつもの演奏法を調整できることだ。来館者もまた、通行人として、聴き手として、ワークショップの参加者として、異なる仕方で空間と関わることができる。ここでは展覧会場、コンサートホール、学びの場、楽器という区分が互いに重なっている。

編集部