海の向こうへ
内覧会で感想を尋ねた筆者に、西村は「約10年分の作品を一堂に集めた初めての機会で、変化よりも連続性が見えた」と話し、「結びつかないと思っていた作品同士が響き合い、本質的な部分は変わっていなかった」と微笑んだ。美大を卒業して20年余り、拠点の神奈川で画家が見つめる世界は変わらないが、物語を語るよりも、見るという経験そのものを問い直す作品に対する市場での評価は高まり、展覧会の依頼も近年急速に増えた。その変化について問うと、「画家としては、絵を描くこと、その環境づくりがすごく大切。時間は長い流れになるいっぽうで、絵と向き合って何かアクションするときは、すべて一瞬なんです」と答えた。
西村の絵画が欧米で支持される理由をクストゥに聞くと、彼女は自分が魅了された要素として「多孔性(porosity)」を挙げた。人と動物、人物と風景、主題と背景、記憶と現実など、本来は別々に存在し、認識されるものが、それぞれの輪郭を保ちながら互いに浸透し合う状態のことだ。出来事そのものより、その痕跡が知覚や記憶のなかで別の像へと変わる瞬間、あるいは両者を行き来する通路のように。作品同士の反響で構成された本展のように、断片は誰かの断片と重なり、波紋のように広がっていく。像の移ろいや、ひとつの領域から溢れ出るものを抱えた絵画のあり方こそ、西村の作品が広く受け入れられている理由のひとつかもしれない。
西村は今日も変わらぬ場所で画面へ向かう。一つひとつは束の間の筆致であっても、その反復が積み重ねた時間が、絵の内側に息づいている。肖像画であれ風景画であれ静物画であれ、その絵画は見る者の視線によって初めて像を結ぶ。そこに人間存在の淵に漂う本質を見る人もいれば、途方もない価値を見出す人もいる。鑑賞者がどこにピントを合わせるかで、本展が立ち上げる風景もまた違って見えるだろう。
アート・バーゼル・パリの週に開幕した本展は2027年1月3日まで開催され、その後イタリア・プラートのルイジ・ペッチ現代美術センターへ巡回する。




















