記憶の奥底に刻まれた断片を画面上に複雑に重ね合わせることで一枚の絵画を構築する西村有。その3年ぶりとなる個展「Around October」が、東京・駒込のKAYOKOYUKIで開催される。本展は、パリのCrèvecœurとの2会場同時期開催となる。会期は10月24日~11月29日。
西村の絵画には、日常の何気ない風景や人物のクローズアップ、鳥、猫、果物など身の回りの様々なイメージが用いられる。その作品と対峙するとき、鑑賞者は西村の記憶のイメージと共鳴し、誰もが子供の頃に持っていた自分だけの秘密の風景を呼び覚ますという。繊細な色彩と奔放な筆致によって生み出される、曖昧でありながら純粋さを湛えた画面は、鑑賞者に豊かな解釈を促す。
本展では、これまでの透明感のある色彩と幾重にも重ねられた輪郭線による作品に加えて、濃密な色彩とはっきりと区切られた境界線を持つ、より抽象度の高い作品も展開される。この展開には、西村が制作する際に「人やモノを、外側のかたちをシルエットのように描き出すことによって、その実体をとらえたい」という態度がより顕著に反映されている。
また本展では、「自分が知覚していない時間」「異なる複数の時間」をひとつの空間に表現することも目指される。作品のなかに登場する人物や虫のほか、車、船、サッカーボールといったモノに至るまで、いずれのモチーフにもそれぞれが主体となる時間が存在し共存する。西村は、人々がはっきりと理解できる時間、なんとなく感じる時間、そしてまったく想像もしたことがないような時間を、曖昧なままに描き出そうと試みる。
本展のタイトルにもなっている10月は、暑くもなく寒くもない季節、あるいは暑くもあり寒くもある季節だ。西村は、10月は「移ろいやすく不安定な季節」であり、一年のなかで自分にとってもっとも「しっくりくる」季節だという。その曖昧さを表現する本展「Around October」は、明確には示されていない何かを人々に想像させるだろう。