
地層の断面に現れる凹凸や粒感、乾いてひび割れた土壁、ゴツゴツとした岩肌、光を透かして深い色をたたえる鉱物。自然物が放つ多様な存在感を、すべて織物で表現できるとしたら──。それを実現したのが、川島織物セルコンが「ミラノデザインウィーク2026」で発表した「織の地層 - Woven Strata -」シリーズだ。一枚の織物が、自然物の手触りや気配を宿すまでに、どれほどの創意工夫が重ねられているのか。11月に大阪と東京で開催される特別展を前に、京都の本社を訪ね、その表現と技術をひもといた。
ミラノデザインウィーク2026「織の地層 - Woven Strata -」
川島織物セルコンは1843(天保14)年、京都で呉服悉皆を生業とする「上田屋」として創業した。帯や緞帳、祭礼幕などの美術工芸織物から、カーテン、カーペット、壁装材などのインテリアファブリックまでを手がける老舗企業として知られている。京都・市原にある本社工場では、企画・デザインから撚糸、染色、製織までを一貫して行い、手織りと機械織りの双方の技術を保有。現在はその技術を活かし、イタリア・ミラノで開催されるデザインの祭典「ミラノデザインウィーク」に出展を続けている。
同社がミラノデザインウィークへ出展するのは今回で5回目。これまでは光の当たり方で表情を変える、光沢のある織物を多く発表してきた。だが前回出展した「百の黒 - A Hundred Black -」(2024)シリーズで大きな反響を得たのは、むしろ自然の質感をもつ作品だったという。そこで今回は大きく舵を切り、地層という自然物を織物で表現することに挑んだ。
伊豆大島の地層を、島のかたちに織る
縦3メートルの大きなタペストリーが目の前にあらわれる。うねりながら幾重にも重なる地層の断面。地表部分は湿り気を帯びた濃い色で、そのあいだからわずかに草が生えている。下へ向かうにつれて乾燥し、風化したような色合いになる。数えきれないほどの噴火を重ねて生まれた、自然の縞模様だ。近づいて見れば、ぬめるような光沢を放つ糸、綿のようにふくらんだ糸、麻のかさついた糸が折り重なり、層をなしているのがわかる。触れてみれば、確かに織物だ。柔らかく、そして重厚感がある。
本展の企画担当者は語る。「こういうガサガサした質感の織物は普段は需要がないので、まずつくらないんです。だからこそ、あえてつくってみたらどうなるのだろう、とスタートしました」。


本シリーズのメインビジュアルにもなったタペストリーのモチーフは、伊豆大島に実在する「地層大切断面」だ。バウムクーヘンのように幾重にも重なった地層の輪郭は、四角ではなく伊豆大島の島影そのものをかたどっている。
この自由な形状を可能にしているのが、「綴織(つづれおり)」という技法だ。経糸(たていと)を緯糸(よこいと)で完全に覆い隠すように織るため、色を切り替えても境目が目立たず、なめらかなグラデーションや絵柄を織り出せる。着物の帯はもちろん、劇場の緞帳にも用いられてきた技法で、織り終わりの経糸を隣の糸のあいだに差し込んで処理すれば、矩形にとらわれない有機的なフォルムにも仕上げられる。緯糸の織り目が垂直ではなく斜めに走っているのは、「流し織」によるものだ。これが地層の自然な流れを強調する。


近寄ってみると、地層の一筋一筋がそれぞれ異なる色、素材、太さの糸を撚り合わせた「意匠撚糸(いしょうねんし)」で織られていることがわかる。使われている素材は、レーヨン、ウール、紙など。乾いた層の質感を出すために、タペストリーには通常あまり使わない麻も多めに織り込んでいるという。意匠撚糸は細い糸を6本撚り合わせたものを基本に、もっとも太いものでは24本を1本に撚り合わせているものも存在する。
分業が一般的な織物業界では、糸の撚りや染めは外部の専門業者に頼むことが多い。しかし、こうした展示プロジェクトにおいては、製品のように大量の素材を用意する必要はなく、むしろ細やかな調整が求められる。アートピースとしての織物が実現できるのは、撚糸から染色、整経、製織までを自社で一貫して手がける体制があるからだ。
「うちは必要な分だけ糸を染めて、撚糸をつくり、織ってみて気に入らなければ、その日の午後にはもう染め直していきます。完成形から逆算して、糸からつくれるんです」。



工場の一角では、試作段階の意匠撚糸を職人が手で撚っていた。撚糸の試作だけで数十回。小さな短冊状の試織を何枚も織っては、デザイナーと職人が「もう少し乾いた表情がほしい」「別の糸を探してほしい」とやりとりを重ね、イメージに近づけていったという。途中段階の試作を見ると、長い時間をかけて形成された地層がもつ深みに到達するために、糸の色と質感の組み合わせにどれだけこだわったのかが伝わってくる。






















