井口美尚が多摩川の砂利からたどる、調布の知られざる歴史
井口美尚が目を向けたのは、調布を流れる多摩川と、その周辺に刻まれた土地の歴史だ。1923年の関東大震災以降、コンクリート建築の増加に伴い、多摩川の砂利は建築資材として大量に採掘されてきた。井口は、こうした砂利採掘の歴史を手がかりに、かつてこの地域で営まれていた人々の生活や労働の痕跡をたどっている。

展示されているのは、そうした歴史や労働の輪郭を身体によってなぞるパフォーマンスを撮影した映像作品《ロウドウのパフォーマンス》(2026)だ。現在の風景からは容易に読み取ることのできない土地の記憶に、身体的な行為を通して接近する。
井口の作品は、11月13日〜15日に実施される屋外プログラム「ソト」でも上映される予定だ。調布駅前広場に面したビックカメラ京王調布店の壁面を使い、17時〜20時30分に映像が投影される。
飯川雄大が仕掛ける、見えない場所で起こる出来事
飯川雄大は、鑑賞者が作品に気づくことや、作品の存在を知らないまま何かを経験することに着目したインスタレーションを発表してきた。飯川がこれまで取り組んできたのは、展示空間や鑑賞の仕組みそのものに働きかける作品だ。本展でも、作品のすべてが鑑賞者の目の前に提示されるわけではない。

そのひとつが、たづくり2階のくすのきホール前に設置されたロープを用いた作品《デコレータークラブ─0人もしくは1人以上の観客に向けて「調布の森はどこ?」》(2026)だ。
鑑賞者がロープを引くと、何かが動く音が響く。しかし、何がどこで動いているのか、その場からは確認できない。内覧会で飯川が明かしたところによれば、ロープは建物内の別の場所につながっており、そこに「仕掛け」が設けられているという。だが、鑑賞者自身によってその構造を把握する、それが本作の根幹となっている。
行為の結果が見えない場所での変化を引き起こす。その事象を直接確かめることはできない。鑑賞者の認識の外側に作品の一部が存在するという構造が、本展のテーマとも重なっている。

また、会場では各所で《デコレータークラブ─ベリーヘビーバッグ》(2026)も展開されている。置かれているバッグに触れたり、持ち上げたりすることができるという。
飯川の作品には、そこにあるものが作品であることを明示する情報が必ずしも添えられているわけではない。その存在に気づくこと自体が、鑑賞体験の始まりとなる。普段は意識を向けないものに目を留めること、あるいは自分の知らない場所で起こる出来事を想像することが、作品との関わりを生み出していく。
3年間の活動を振り返り、展示室の外へ
会場には、2024年から続く「テンジシツプロジェクト」の活動を紹介するアーカイブも設けられている。


本プロジェクトでは、地域に関する情報収集や市民参加型のワークショップなどを通して、異なる経験や考え方を持つ人々が出会う機会をつくってきた。今回の展覧会は、その成果を振り返ると同時に、これまでの活動を街へと展開する機会でもある。
また、11月13日〜15日に開催される「ソト」では、調布駅前広場や「てつみち」を舞台に、パフォーマンスや映像上映、ワークショップなどを実施。さらに、アーティストが屋外で公開制作を行う「アウトドア・アトリエ」も予定されている。
展覧会のテーマである「見えないところ」は、必ずしも遠く離れた場所を意味するわけではない。日常的に通り過ぎている場所や、見慣れた風景のなかにも、まだ知らない歴史や人々の営みが存在している。4作家の作品と、3年間にわたるプロジェクトの活動は、そうした身近な世界をあらためて見つめるきっかけを提示している。
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