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30人が選ぶ2025年の展覧会90:小川希(Art Center Ongoing / Art Center NEW代表)

数多く開催された2025年の展覧会のなかから、30人のキュレーターや研究者、批評家らにそれぞれ「取り上げるべき」だと思う展覧会を3つ選んでもらった。今回はArt Center Ongoing / Art Center NEW代表・小川希のテキストをお届けする。

文・撮影=小川希

「NEW PLATFORM -Alternative ASIA-」の会場風景より

「しないでおく、こと。―芸術と生のアナキズム」(豊田市美術館 2024年10月12日〜2月16日)

「しないでおく、こと。―芸術と生のアナキズム」の展示風景より

 今年見た展覧会のなかで「取り上げるべき」だと思う展覧会を挙げてほしいという依頼があったので、美術館、ギャラリー、それ以外、からそれぞれひとつずつ挙げることにしました。まずは美術館から、こちらの展覧会。紹介されていたロシアの「集団行為」の活動記録や、オルタの変な芝居も良かったけど、この展覧会の主役は何よりやはり大木裕之さんでしょう。展示会場の中央に大木さんの映像が流れる黒いデカい部屋があり、そこから続くガラスの通路にぶち撒けられた大木さんの私物の数々。細かく見ていけばすべては大木さんの生の(性の?精の?聖の?)軌跡であって、「しなければならない」ことに溢れたこの息苦しい時代において、「しないでおくこと」が溢れ出していたのでした(本展キュレーター・千葉真智子さんによるカタログ掲載の論考は必読!)。ついこの間、大木さんはしないでおいたまま逝ってしまったけど、この展覧会を思い出せば、あの人がひょこひょこと歩く後ろ姿で私たちに無言で伝えてくれていたたくさんのことが頭をよぎるのです。

二藤建人, 安原杏子, 宮田雪乃「Spring Show」(LEESAYA 4月12日〜5月4日)

二藤建人, 安原杏子, 宮田雪乃「Spring Show」の展示風景より

 ギャラリーの展示では、ふらっと訪れた3人展で流されていたひとつの映像作品に衝撃を受けました。二藤建人さんの「Open Home Window」という作品。二藤さんのお子さんが野球をはじめたことをきっかけに制作されたセルフドキュメンタリー。作品のなかでは、我が子に熱血指導をする二藤さん(野球未経験)が終始映されていて、時折、少年野球のコーチによる二藤さんの指導方法に対するツッコミや、同じぐらいの子を持つ親友達からの子供へのコミュニケーションへのダメ出しがワイプ映像として入ってきて笑いを誘います。しかし、偶然撮影されてしまったあるリアルな出来事で、私は号泣しました。子への愛、親のプライド、教育という呪縛、そして正しさとは? 子供がいるいないに関わらず、この映像作品を見たら、心が揺さぶられること必至!!

「NEW PLATFORM -Alternative ASIA-」(Art Center NEW 9月12日〜14日)

「NEW PLATFORM -Alternative ASIA-」の会場風景より 撮影=大橋ひな子(ウェブ版「美術手帖」編集部)

 それ以外では、今年オープンした横浜の新しいスペースにて開催されていた企画を紹介。東南アジア、東アジア、日本から、31組のオルタナティブスペースやアートコレクティブが集結。アジアの各都市で独自の発展を遂げてきた「オルタナティブ=それ以外」の様々な活動の一端を一堂に見られたのは意義深い。短い期間でしたが、お客さんを交えてスペース間の交流がいたる場所で起きていて、トークやパフォーマンスなんかも同時多発に行われ、会場は異様な熱気に包まれていました。何より、どのスペースもこのイベントのために自腹でやってきていたのが泣ける。同時期に横浜にて大きなアートフェアが開催されていましたが、それとの対比も素晴らしかった。色々と終わっているこの資本主義の世界で、希望を捨てないで集うことの意義を思い出す。

編集部