旅のはじまり 1959-1985
「旅のはじまり 1959-1985」では、卒業制作を含む松本の初期作品が紹介されている。松本が入学した1956年当時、東京藝術大学では具象的かつ重厚な絵肌(マチエール)が主流であった。しかし、アンリ・マティスの明るい作風に憧れていた松本はその風潮に疑問を抱き、のちに日本橋高島屋で目にした「世界・今日の美術展」(1956)をきっかけに抽象画の制作を開始する。大学4年生のときに出会った指導教官・小磯良平(1903〜88)の後押しもあり、松本は独自の表現探究をさらに深化させていった。


本章では、アメリカからの帰国後、アクリル絵具と綿のローキャンバスによる新たな表現手法を試みた最初期の作品も紹介されている。
気韻生動 2003-2010
「気韻生動 2003-2010」は、他章で紹介しきれなかった「白」や「黒」をメインに用いた2000年代の作品をダイジェストで振り返る構成だ。例えば、大画面を線の絡まりが埋め尽くすように描かれた《生命体について》(2010)は、水を多用するアクリル画が寒さによって制作できない冬期によく手がけられたという。また、《宇宙エーテル体I》(2003)は、通常1日で描き切るアクリル画のキャンバスが冷夏で乾かず、結果的に2日がかりで完成させた作品だ。そうした偶然の重なりから生まれた、新たな表現を垣間見ることができる。


会場の最後には、松本によるドローイングやスケッチブック、さらにインタビュー映像も上映されており、その制作背景を多角的に知ることができる。

関係者向けの内覧会が行われた5月22日は、松本の90歳の誕生日であった。作品を前に、これまでの制作の軌跡や作品に込めた想いを語る松本は、最後に「命ある限り創作活動を続ける」と言葉を結んだ。本展は、創作への熱意を燃やし続けるひとりの画家の、65年にわたる画業の軌跡を辿るとともに、これからの新たな展開をも予感させる貴重な機会となっている。



















