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「松本陽子 宵の明星を見た日」(府中市美術館)開幕レポート。65年の画業を辿る【2/3ページ】

荒野の光 1987-1995

 もっとも広い展示室では、「荒野の光 1987-1995」と題し、松本の代名詞とも言えるピンクを基調としたアクリル絵画作品群が展開されている。東京藝術大学在籍中は油彩画を学んでいた松本だが、油絵具特有の光沢や重量感は、自身が望む「透明で明るい作品」の表現を阻む要因だったという。そんな折、滞米中に出会ったアクリル絵具を用いた制作をスタートさせる。

「荒野の光 1987-1995」の展示風景

 その手法は、絵具を大量の水で溶いて薄塗りし、アクリル媒材であるグロスポリマーメディウムを多用しながら、絵具を拭き取っていくというもの。アクリル絵具は乾燥が早いため、翌日に制作を持ち越すことはできず、すべて1日のうちに完成させる必要があった。

 抽象的でありながら、その質感は空や雲、蒸気といったモチーフを思わせる。しかし、松本は具体的な対象を描いているわけではなく、事前に明確な構想があるわけでもない。真っ白なキャンバスに向き合った瞬間、考えるよりも先に動く手に任せて制作を進める。そのプロセスは、いわば「絵の側から指示を受ける」ような感覚だという。朝に制作を開始して大体夕方には終えるという、1日限りの短い時間のなかで作品が描かれていく。

松本陽子《黒い岩Ⅴ》(1991)キャンバスにアクリル絵具 200×250cm 個人蔵

 会場では、作品のスケールに圧倒される。最大長辺250センチにおよぶ大作群が並ぶ様子は圧巻だ。91年には国立国際美術館での個展「近作展」にて、これらの作品を含む新作12点が披露され、大きな話題を呼んだ。

緑をめぐる思考 2005-2019

 「緑をめぐる思考 2005-2019」では、2000年代に改めて取り組みはじめた油彩画、なかでも緑色を基調とした作品群が紹介される。90年代後半から「自立した緑の絵画を描きたい」と言っていた松本は、2005年に油彩による緑の作品を制作する。理想の緑を表現するためにはアクリルではなく油彩である必要があったこと、そして、アクリル画を長時間屈みながら制作することが身体的に厳しくなってきたことが重なり、満を持して油彩画へのシフトが行われた。

「緑をめぐる思考 2005-2019」の展示風景
松本陽子《私的光景》(2005)キャンバスに油彩、木炭、パステル 200×250.3cm 神奈川県立近代美術館

 2005年に神奈川県立近代美術館 鎌倉で開催された二人展「今日の作家X 西村盛雄・松本陽子」のために、《私的光景》(2005)をはじめとする4点をわずか1ヶ月で描き上げた。展示会場では照明が少し落とされており、キャンバスに描かれた緑色が丁寧に鑑賞者の目の前に浮かび上がるような工夫が凝らされている。

編集部

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田中かえ

2018.03.02 - 03.17
TAV GALLERY
新宿 - 四谷 - 中野|東京