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「―モンスーンに吹かれたように― 大移動と交流のアフリカ‐アジアの現代美術」(岐阜県美術館)会場レポート。境界を越えるために必要なものとは【3/3ページ】

暴力の連鎖、その先に見出す未来

 「武器をアートに:国立民族学博物館コレクション」は、モザンビーク・キリスト教協議会(CCM)と、えひめグローバルネットワーク(現四国グローバルネットワーク)などのNGO団体によって行われた平和活動によって生まれた作品群だ。

「武器をアートに:国立民族学博物館コレクション」より、左からフィエル・ドス・サントス・ラファエル《フルート奏者》(2012)、クリストヴァオ・カニャヴァート(ケスター)《ギター奏者》(2012)。銃器の造形が人物のフォルムに巧みに生かされている

 モザンビークはポルトガルによる植民地支配から1975年に独立したが、その後1992年まで内戦状態が続き、終結後も多くの武器が民間に残され治安が悪化していた。こうした状況を受け、CCMは武装解除のための「銃を鍬に」プロジェクトを開始。武器を回収し農具などと交換していった。やがて回収した武器を爆破し、溶鉱炉で溶かし、アートの素材にする活動へと発展。会場で紹介されているのは、このプロジェクトのなかでクリストヴァオ・カニャヴァート(ケスター、1966〜)やフィエル・ドス・サントス・ラファエル(1972〜)が制作した、楽器を演奏する人の像だ。芸術によってアフリカの負の歴史を伝えるとともに、それを変える力への希望も両作からは感じられる。

 長谷川愛の《Alt-Bias Gun》(2018)は、作家が米ボストンのMITメディアラボを修了するまでのあいだ、研究室外で人種差別的体験をたびたび受けたことが制作の背景にある。こうした経験は、2016年に起きた無実の黒人男性を警察官が射殺された事件をはじめ、アフリカ系アメリカ人が晒されている過酷な状況と重ね合わせられた。

長谷川愛《Alt-Bias Gun》(2018)。置かれたパネルの人物たちに銃を向けると引き金が引けなくなる

 《Alt-Bias Gun》は誤射によって撃たれた人々の顔を機械学習によって読み込ませ、「誤射されやすい顔」を認識させた銃だ。その特徴をもった人たちが銃口の先にいるとき、銃は一定秒数ロックされ発砲を思いとどまらせる時間をつくり出す。会場では実際に顔写真の小さなパネルが用意されており、パネルに銃口を向けるとロックされる機構が体験可能。銃を手にしたときに喚起される潜在的な暴力性と、それをシステムとして止めようとするアーティストの想像力のせめぎ合いを肌で感じることができる。

生活のなかに見出すアジアとアフリカをつなぐ「モンスーン」

 ジュエル・アンドリアノメアリソアは1977年、マダガスカル生まれのアーティストだ。生活の延長であり、また個々の人生や体験が染み付いた被服という素材を使って作品を制作している。本展のための新作シリーズ「風の宮殿」は古い着物の布を縦に細かく切り裂き、キャンバスの上に貼り付けて重層的な空間を平面上につくりあげた。マダガスカルと日本との距離をつなぐために、衣服という人種や民族を超えた普遍的な素材が生かされている。

ジュエル・アンドリアノメアリソア「風の宮殿」シリーズ(2026)。布素材によるテクスチャは角度を変えることで様々な表情を見せる
エリアス・シメ《タイトロープ・モバイル》(2009-14、タグチアートコレクション/タグチ現代芸術基金)。接近すると複雑な模様が小さな電子部品によって構築されていることがわかる

 エリアス・シメは1968年エチオピア出身のアーティスト。出品されている《タイトロープ・モバイル》(2009-14)は、電子基盤や配線、キーボードなどを利用して制作されおり、近づいて見れば小さな部品の集合がダイナミックの文様を構成していることがわかる作品だ。

 これらの情報機械で使用される素材は、廃棄されるとアフリカのような途上国へと集まってくる。誰かの生活のなかで様々な行為や記憶を媒介したであろう部品が、先進国からアフリカへと流れていった。それらがふたたび集合したときに現れる像には、国境を超えたダイナミズムが宿っている。

ティンガティンガ派の作品。左からオマリ・アロイス・アモンデ《樹にとまるペリカン》(1992)、サルム・ムサ《羽を広げた孔雀》(制作年不詳)

 展示室の最後では、岐阜県美術館のコレクションより、ティンガティンガ派の作品が紹介されている。ティンガティンガ派の祖であるエドワード・サイディ・ティンガティンガ(1932〜72)は、タンザニア南部で生まれ、首都のダルエスサラームでメゾナイトと呼ばれる資材にエナメルで動植物を描いた土産物をつくり始めた。以後、このスタイルは様々なアーティストへと波及し、なかにはオリジナリティを出すものも表れていった。同館を始め、90年代以降多くの館でティンガティンガ派は紹介されており、日本におけるアフリカの表現の受容の歴史の一端を知ることができるコレクションといえるだろう。

ミュージアムショップに並ぶ「BONBO STARS」の作品

 また、ミュージアムショップでは、1984年生まれのアーティスト・長坂真護がプロデュースする「BONBO STARS」の作品が販売されている。電子部品を燃やすことで生計を立てている人々が住むガーナのスラム街・アグポグブロシーを拠点に、EV、リサイクル、農業等を展開して雇用を生み出す事業を展開する長坂は、アグポグプロシーでアーティストたちの育成にも励む。「BONBO STARS」と名づけられた彼らの作品の売り上げのうち10パーセントが、作家本人へ直接給料として還元される。

 アフリカと日本をつなぐ文化の線を「モンスーン」と言う言葉でとらえようとした本展。表題のその言葉をそのまま受け取れば、遠い国々と越境してつながるロマンチシズムやダイナミズムを感じられる。いっぽうで本展が提示しているのはそれだけではない。アフリカ系のみならず、多様なルーツをもつ人々が日本の社会を構成しているという事実が、各作品からにじみ出てくる。越境とは、何も日本とアフリカのあいだにある約1万キロメートルの距離を超えることだけではない。この国で生きる一人ひとりが、意識のなかの境界を越えるためのモンスーンを吹かせるための契機。それこそが本展ですくい上げるべき、大切なメッセージではないだろうか。

編集部