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「ロン・ミュエク」展(森美術館)開幕レポート。圧倒的なリアリティの先に広がる解釈や思索の余白【2/3ページ】

初期の代表作品も

 本展は作品を時系列に並べるのではなく、会場の特性にあわせて過去作と近作を織り交ぜて構成されている。ミュエクの初期の代表作である《エンジェル》(1997)は、会場内で唯一、自然光が差し込む空間で紹介されている。公開される機会が希少な個人蔵の作品で、日本初公開となる。

ロン・ミュエク《エンジェル》(1997)ミクストメディア 110×87×81cm 個人蔵

 18世紀のイタリアの画家ジョヴァンニ・バッティスタ・ティエポロによる《ヴィーナスと時間の寓意》(1754〜58頃)をロンドンのナショナル・ギャラリーで目にし制作としたという本作。幸福の象徴である「天使」のイメージからは程遠い、物憂げな風貌のエンジェルは、地上53階に注ぐ外光を浴びながら、力なく視線を落としている。展示におけるライティング(自然光を含む)を極めて重視するミュエクが、本作をこの展示室に展示した意図を想像したい。なお、夜間はひさしが上がり、窓の外には夜景が広がり、作品に対する新たな解釈が生まれそうだ。

ロン・ミュエク《ダーク・プレイス》(2018)ミクストメディア 140×90×75cm ZAMU

 彫刻を包み込む暗闇を作品の一部に取り込んだ《ダーク・プレイス》(2018)も日本初公開となる作品だ。暗い入り口に立った鑑賞者は、暗闇のなかに浮かぶ巨大な男性の顔と対峙することになる。いっぽう、高さ90センチほどのサイズの下着姿の老人と鶏が対峙している《チキン/ マン》(2019)からは、コミカルな印象を受ける。知人をモデルにしたという本作は、つねに何かに憤っているその人物の佇まいに作家が興味を抱いたことから生まれた。スケールの差異や切り取られる場面によって、様々な印象が創出されていることがわかる。

ロン・ミュエク《チキン / マン》(2019)ミクストメディア 86×140×80cm クライストチャーチ・アートギャラリー / テ・プナ・オ・ワイウェトゥ
ロン・ミュエク《買い物中の女》(2013)ミクストメディア 113×46×30cm タデウス・ロパック

 ひとりの母親を描いた《買い物中の女》(2013)は、両手に買い物袋を下げ、コートの懐に赤ん坊を抱いている。実際の人間よりもはるかに小さくつくられた本作からは、母親の疲労感や脆さや弱さが強調されているようだ。抱かれた赤ん坊は真っ直ぐに母親の目を見つめているが、母親の目線は虚空を漂っている。ミュエクがロンドン北部のスタジオ近くの交差点で実際に見た母親をその場でスケッチして制作された本作。レジ袋のなかに透けて見える食材などまで再現されており、リアルな日常のなかにある切実さがより際立っている。

ロン・ミュエク《マスクⅡ》(2002)ミクストメディア 77×118×85cm 個人蔵

 眠りに落ちた作家自身の顔を、約4倍で表現した作品《マスクⅡ》(2002)は、裏側に回ると空洞になっている。恐ろしいほどリアルな自画像にも関わらず、それがたんなる虚像=マスクでしかないという事実。ミュエクの作品の特徴である、現実と非現実のバランスを表現した典型と言えるだろう。

編集部