具象的彫刻に新しい解釈を与える作品群で知られるオーストラリア出身のアーティスト、ロン・ミュエク。その最新の個展がパリのカルティエ現代美術財団で開催されている。
ミュエクは1958年メルボルン生まれ。86年にイギリスに拠点を移し、普遍的な被写体をテーマとしながら、規格外のサイズで不気味な違和感を植え付ける作品を制作。その作品は、制作に数ヶ月から、ときには数年の歳月を要しているという。
カルティエ現代美術財団は2005年、フランスでは初となるロン・ミュエクの個展を開催し、続いて13年にはより幅広いミュエクの作品を集めた展覧会を開催した。これらの展覧会をきっかけに、同財団はミュエクによる複数の作品購入を実現し、現在でもフランスにおいてミュエクの作品を所蔵する唯一の機関だ(ミュエクによる巨大な彫刻《スタンディング・ウーマン》は青森県にある十和田市現代美術館でも常設展示されている)。
同財団では3回目のロン・ミュエク個展となる本展は、財団と作家との対話の続きとしてミュエクの芸術活動における近年の進化を提示するもの。オーストラリア国外で初公開となる記念碑的なインスタレーション《Mass》(2017)をはじめ、本展のために制作された大型犬の新作彫刻群が展示されている。
2017年にメルボルンのビクトリア国立美術館の依頼によって制作された《Mass》は、高く積み上げられた100個の巨大な人間の頭蓋骨で構成された壮大な作品で、展示ごとに各会場に合わせて作家が再構成を行う。また、同じくフランス初公開となる作品《Dead Weight》(2021)は重さ2トン近い鋳鉄製の頭蓋骨であり、ミュエクの作品の典型である自然主義的アイデアとは対照的に、鋳造の痕跡を残し、プロセスや素材の生々しさをそのまま表現したものだ。
そのほか、裸体を腕で覆い、クリンカー素材の優雅なボートの舳先に座るひとりの男性を表現した《Man in a Boat》(2002)、男の赤ん坊の小さな彫刻である《Baby》(2000)、巨大な新生児像である《A Girl》(2006)といった作家の2000年代の活動を象徴する3作品も会場で見ることができる。
なお、フランス人写真家ゴーティエ・ドゥブロンドが、ミュエクのスタジオで最新作2点の制作過程を撮影したショートムービーも、カルティエ財団のデジタルプラットフォームで公開される予定。こちらもあわせてチェックしてほしい。