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「工芸と天気展 -石川県ゆかりの作家を中心に-」(国立工芸館)開幕レポート。工芸を通じて、地域固有の風土に触れる

金沢の国立工芸館で、移転開館5周年記念 令和6年能登半島地震復興祈念「工芸と天気展 -石川県ゆかりの作家を中心に-」展がスタートした。会期は2026年3月1日まで。

文・撮影=三澤麦(ウェブ版「美術手帖」編集部)

展示風景より、左から番浦省吾《双象》(1972)、番浦省吾《海どり》(1973)

 金沢の国立工芸館で、移転開館5周年記念・令和6年能登半島地震復興祈念「工芸と天気展 -石川県ゆかりの作家を中心に-」展がスタートした。会期は2026年3月1日まで。担当学芸員は日南日和(国立工芸館 特定研究員)。

 令和6年1月1日に発生した能登半島地震から、まもなく2年が経とうとしている。この災害が人々の生活や地域文化、産業にもたらした被害は甚大であり、いまも復興の途上にある。今回の展覧会は、被災地の一日も早い再生を祈念するために企画されたものだ。「工芸と天気」の関わりをテーマに、会場では、松田権六、富本憲吉、木村雨山といった人間国宝18名を含む、石川県ゆかりの作家を中心とした多彩な作品が紹介されている。

 本展は、大きく2章構成となっている。まず「1章 天気と生きる、天気とつくる」では、「弁当忘れても傘忘れるな」と言われるほど天候の変化が激しい北陸地方の気候的特徴に着目し、「漆」「金箔」「九谷焼」「加賀友禅」といった土地ならではの工芸技法と天気との関係性を手がかりに、作品の新たな鑑賞視点を提示している。

展示風景より

 例えば「漆」のセクションでは、人間国宝・松田権六による《蒔絵鷺文飾箱》(1961)を展示。こっくりと深みのある黒漆に、卵殻で表された白鷺が浮かび上がる。白鷺の周囲には柳の葉が描かれ、その葉からは真珠の露が滴り落ちる瑞々しい意匠が魅力的な作品だ。

展示風景より、松田権六《蒔絵鷺文飾箱》(1961)

 「金箔」や「九谷焼」も、石川県の気候風土のなかで育まれてきた工芸産業のひとつであり、とくに金箔は国内生産のほとんどを金沢市が占めている。ここでは伝統工芸から現代作家の作品までを取り上げおり、その技法や表現の変遷をたどることができる。一見華やかな金箔や九谷焼も、天気が移ろいやすく日照時間も短い北陸の風土で培われてきた表現だと考えると、うなずける。

展示風景より、𠮷田美統《釉裏金彩牡丹文飾皿》(2017)
展示風景より、手前は三代德田八十吉《燿彩鉢 旋律》(1992)

 また、金沢市を中心に発展した「加賀友禅」にも、図案や作業工程に天気との深い関わりが見られる。華やかでありながら品格のある加賀友禅の魅力を、作品を通して間近に味わえるだろう。

展示風景より、手前は木村雨山《一越縮緬地花鳥文訪問着》(1934) 前期展示
展示風景より、手前は木村雨山《一越縮緬地花鳥文訪問着》(部分、1934) 前期展示
展示風景より、写真資料「浅野川の友禅流し」(1952)。余分な染料や糊を洗い流すために行われるこの友禅流しは、冷たい水ほど色がよく定着することから、真冬には「寒晒し」と呼ばれて行われていた。近年では、水質汚染や地球温暖化による紫外線量の増加などの影響により、河川で行われることはなくなっている

編集部