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「工芸と天気展 -石川県ゆかりの作家を中心に-」(国立工芸館)開幕レポート。工芸を通じて、地域固有の風土に触れる【2/2ページ】

 続く「2章 空を見上げて/春を待つ」では、雲や雪など、日々変化する空模様に着想を得た作品を紹介する。天気はこの地域の人々にとって生活に密接な関心事であり、その意識が作品のなかでどのように表現されてきたのかを読み取ることができる。

 本展のメインビジュアルとしても用いられている番浦省吾の《双象》(1972)は、雲と水といった流動的なもののかたちをとらえた作品だ。奥能登・七尾市出身の番浦が描く能登の自然の力強さは、どこか故郷の情景を思わせるような静かな存在感があり、アルミ箔と色漆の境界はやわらかくぼかされ、作品に独特の動きを添えている。

展示風景より、左から番浦省吾《双象》(1972)、番浦省吾《海どり》(1973)

 水口咲による《乾漆箱 新雪》(2021)は、屋根などに降り積もる新雪をモチーフとした、豪雪地帯ならではの造形作品だ。水分と空気を含んだ新雪のふっくらとした質感を思わせるフォルムと、「塗り立て」技法による鮮やかな赤漆のコントラストが印象的でもある。

展示風景より、水口咲《乾漆箱 新雪》(2021)
展示風景より

 また寺井直次《金胎蒔絵水指 春》(1976)に見られるような、梅の花が咲き誇る暖かな情景を思わせる作品からは、厳しい冬を越えたのちの春の訪れを慈しむ人々の感情が伝わってくる。

展示風景より、寺井直次《金胎蒔絵水指 春》(1976)

 作品に加え、常設展示の「松田権六の仕事場」や映像資料では、松田が用いた道具や職人らの手仕事を垣間見ることができる。石川という土地で育まれてきた北陸特有の工芸文化を多角的にとらえ直す機会となるだろう。

 石川県は度重なる自然災害によって人々の生活や営みが大きく影響を受け、積み上げられてきた文化の継承も容易ではない状況にある。だからこそ本展は、地域の文化資源に改めて目を向け、工芸がいかに土地とともに在り続けてきたかを考える契機となるだろう。工芸を通じて、地域の記憶や風土に触れることは、復興へ向かう道のりを支える心の拠り所ともなり得るのではないだろうか。

展示風景より、「松田権六の仕事場」常設スペース
展示風景より、「松田権六の仕事場」常設スペース
展示風景より、映像資料と、右は橋本真之《重層運動膜(内的な水辺)》(1982-83)

 なお、国立工芸館1階では、能登半島地震と奥能登豪雨からの復興を支援するための企画として「ひと、能登、アート。」展が同時開催されている。東京国立博物館をはじめとする都内の美術館・博物館によるコレクションから文化財・工芸作品が紹介されるほか、隣接する石川県立美術館(11月15日〜12月21日)、そして21世紀美術館(12月13日〜2026年3月1日)でも、各館の特徴を活かした作品が展示されているため、ぜひあわせて足を運んでみてほしい。

展示風景より
展示風景より、「深鉢形土器」(縄文時代中期・前3000-2000)
展示風景より

編集部