ともにある時間
3つ目のキーワード「ともにある時間」では、歴史的な出来事がどのように現在へと持続し、人と人との協働や共感がいかに育まれるのかが、作品を通して浮かび上がる。
インドネシア・ジョグジャカルタを拠点に活動する北澤潤は、日本軍がジャワ侵攻に用いた戦闘機「隼」が、戦後インドネシア軍の独立戦争で再利用されたという史実に着目。現地の凧職人たちと協働し、隼を実寸大でよみがえらせた。尾翼から細部に至るまで職人による手仕事が施され、かつての戦争の痕跡が「手仕事」を媒介として現在の創造行為へとつながっていく。また会期中には、ワークショップを通して作品を育て続ける試みも行われる。

宮田明日鹿は、被災地など各地に赴き、人々が編み物や刺繍を通して人生経験や記憶を共有する「手芸部」を運営している。そこで形成される一時的なコミュニティは、宮田が不在となった後も自発的に存続する例が多く、時間と関係性の積み重ねが、そのまま生きたアーカイヴとして機能していく。

山形を拠点に活動するアメフラシは、印刷工場跡をスタジオ兼コミュニティスペースへ再生させ、草鞋や箒づくりといった地域の文化・産業を長期的な視点で支えるアートプロジェクトを展開している。箒の素材であるホウキモロコシの栽培には約3年を要し、その長い時間の積み重ねが、そのまま文化の継承へとつながっている。

ひがれおは、沖縄の土産物として女性たちが制作してきた琉球人形に着目し、戦後の米軍基地の存在や日本文化との混淆、観光産業の展開がどのように造形表現へ反映されてきたのかを読み解く。ハロウィンやマドンナ風の衣装を纏った人形には、外部文化や時代の影響が鮮明に刻まれている。

ZINEの出版を中心に活動するMultiple Spiritsは、19世紀イギリスで生まれた「新女性(ニューウーマン)」の概念と、その東アジアへの伝播を手がかりに、大正期の日本における女性の自立や社会変革の動きを再考する。フェミニズムの視点から歴史に新たな解釈をもたらす実践である。
在日コリアンを主題としてきた金仁淑は、近年、滋賀県のブラジル移民学校・サンタナ学園に継続的に通い、子供たちや教師との共同制作を展開している。記録映像《Eye to Eye: Side E》では、他者と向き合うという行為そのものが、相互理解のための基盤として提示される。



















