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「六本木クロッシング2025展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」(森美術館)開幕レポート。多層化する時間に宿る永遠を問う【3/5ページ】

時間を感じる

 次のキーワード「時間を感じる」では、時計では測れない揺らぎをもつ多様な時間の存在が浮かび上がる。

 A.A. Murakamiの新作《水中の月》(2025)は、霧、シャボン玉、プラズマなどの素材と独自技術を組み合わせたインスタレーション。巨大な樹木状の彫刻から落下するシャボン玉が水面で弾む光景は幻想的で、本作が初めてAIを取り入れ、複雑な動作制御をAI生成コードが支えている点にも注目したい。

展示風景より、A.A. Murakami《水中の月》(2025)

 ガーダー・アイダ・アイナーソンは、クローズド・キャプションをモノクローム絵画として描き、音声情報を静止させる。「乱れた呼吸」「爆発音の反響」など、現代社会の不安や緊張を想起させる言葉が画面に浮かび上がり、床に置かれた香港民主化デモのバリケードを模した小作品とともに、歴史と暴力の痕跡を空間に刻む。

展示風景より、ガーダー・アイダ・アイナーソンの作品群

 細井美裕は「ヒューマン・アーカイブ・センター」シリーズの新作《ネネット》(2025)を展示。40年以上同じ場所で生活するパリ植物園のオランウータンの周囲の音を録音し、「聴覚によるアーカイヴ」という行為を提示する。

展示風景より、細井美裕《ネネット》(2025)

 和田礼治郎《MITTAG》(2025)は、真鍮フレームに挟まれた2枚のガラスのあいだにコニャックが満たされた作品。液面の水平線が窓外の地平線と重なるように設置され、発酵や蒸留のプロセスを通した時間の循環を可視化する。

展示風景より、和田礼治郎《MITTAG》(2025)

 荒木悠《聴取者》(2025)は、巨大なオイスターが語りかけるように響く映像作品。「沈黙すべきか」「声を上げるべきか」といった現代的な葛藤が語られるが、最終的には「もっとも大切なのは、会話し、耳を傾けること」という結論に至る。分断が進む社会において、静かでありながら強いメッセージを発している。

展示風景より、荒木悠《聴取者》(2025)

編集部