いま、目の前にある“分断”に向けて。「六本木クロッシング2019展:つないでみる」が森美術館で開幕
東京・六本木の森美術館が3年に1度、日本の現代アートシーンを総覧する定点観測的な展覧会シリーズ「六本木クロッシング」。1970〜80年代生まれの日本の作家25名を「つないでみる」をテーマに紹介する今回の展示をレポートで紹介する。
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森美術館が3年に1度、日本の現代美術シーンを総覧する展覧会として開催してきたシリーズ展「六本木クロッシング」。第6回目を迎える今回は、シリーズ初の試みとして、森美術館の3名のキュレーター(椿玲子、徳山拓一、熊倉晴子)が共同キュレーションを行い、1970〜80年代生まれを中心とした日本の作家25組を紹介している。
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キュレーターの椿は、「生活は便利になり、価値観の多様性も根付いてきました。表面的には社会における個人の自由度が増しているように見える反面、新たな分断も生じています。本展は“脱人間中心主義”といった今日的なテーマも視野に入れながら、異質なものをつなげることをテーマにしました」と話す。
この展覧会は、作品どうしに有機的なつながりを見出すことを目指しているため、セクション(章)が設けられていない。その代わりに、約60点の作品を読み解くための3つのキーワードが存在している。
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まず1つ目のキーワードは、「テクノロジーをつかってみる」。専門的な知識や経験が必要とされる最新のテクノロジーだが、アーティストたちは技術や理論を独自の方法で使い、実験的な作品や表現をつくり出している。例えば、森永邦彦率いるファッションブランドの「アンリアレイジ」は、京都大学の川原研究室とコラボレーション。人の体温で形状が変化する、低沸点液体を使った新しい服のあり方を提案する。
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また林千歩は、社長室に見立てた空間に、陶芸教室を営む既婚のAIロボット「アンドロイド社長」が、人間の女生徒と恋に落ちるという設定の映像を、インスタレーション形式で発表。AIロボットのユーモアあふれる「愛の物語」を描くことで、生命や人間性の定義について考えることを促す。
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そして、2つ目のキーワードは「社会を観察してみる」。このキーワードは、世の中や身の回りで起こっていることを社会学的な視点から観察することで、そこに潜む事実や新たな発見を導き出すアーティストの視線を意味する。
2011年の東日本大震災以降、作品を通して日常の政治性や差別に向き合ってきた竹川宣彰は、二項対立的とは異なる多義的な関係性を描いてきた。おびただしい数の猫の人形が目を引く《猫オリンピック》は、1300匹を超える猫が集結する競技場を中心に構成されたインスタレーションだ。
愛猫・トラジロウを交通事故で失ったことを契機につくられた本作。竹川は「2020年東京オリンピックへの熱狂に隠された政治問題に対する憤りとやるせなさは、トラジロウの死を受け入れることの難しさと重なる」と語る。
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竹川と同様、東日本大震災に大きな影響を受けているのが毒山凡太朗だ。震災をきっかけに「自分がいままで教えられてきたことは嘘だったのではないか」と感じ、作家として制作をスタートした毒山。毒山は、仮設住宅で暮らす人々が、自身で制作したお面で顔を覆い、戻ることのできない故郷を指差す《あっち》や、「日本統治時代」をテーマに、台湾の合唱団に参加する高齢者の人々へのインタビューを行った《君之代—斉唱—》を出品している。
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アーティストたちは、思いもよらないものをつなげてみることで、新しい視点を提示し、これまでにない価値をつくり出す。本展のキーワードの3つ目は「ふたつをつないでみる」だ。不法投棄されたゴミなどを組み合わせたオブジェを撮影する万代洋輔。万代の「蓋の穴」シリーズは月に1〜2度、「不法投棄の現場を探し、撮影場所を決め、廃棄物を組み立て、明るくなってきたら撮影する」という決まった手順で作品を繰り返すことでつくられてきた。非日常的・儀式的な行為を通して現前する、人間の存在や崇高さも感じさせる記録写真に注目してほしい。
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万代と同じように、不要と見なされたものを組み立てることで作品を構成するのが青野文昭だ。青野は、使えなくなった車や家具などの様々なものを「なおす」スタイルで、新たな生命力を秘めるような彫刻作品を制作する。自身も被災者となった2011年3月の東日本大震災後は、津波により破壊された被災物を用いた作品制作にも集中的に取り組んできた。
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本展では、こうした3つのキーワードの内側、あるいはその中間にあるような作品も多く出品されている。
例えば、各地の芸術祭や展覧会に参加し、鑑賞者の知覚と既成概念を揺さぶってきた、荒神春香、南川憲二、増井宏文からなるアーティストグループ「目」は新作《景体》を発表。「私たちは海の景色そのものに近づくことはできない。近づけば波になり、さらに近づけば水になる」という荒神の思いに端を発した本作は、景色としての海の存在感、塊としての認識を両立させたかたちで目の前に現れる。
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そのほかにも近年、空間全体で絵画を構成するような作品を手がける杉戸洋、身の回りの出来事を再構成することで、日常の感覚や認識に疑問を抱かせ、それらの意義を改めて問いかける作品を発表する磯谷博史。そして人あるいはものとの予期せぬ遭遇体験やそのときに抱く違和感を題材に、パフォーマンスやインスタレーションを手がける「ヒスロム」らの作品にも注目したい。
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セクションがなく、展覧会における各作品の立ち位置が明示されるこのない本展。しかし本展の出品作品のなかには東日本大震災、喪失と怒りの気配、ディストピア的様相を呈した描写が少なくない。その背景にあるのは、いまの日本を生きる1970〜80年代生まれの人々が持つ固有のリアリティであり、そこからナイーブで希薄なつながりが立ち現れているようにも見えた。