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「六本木クロッシング2025展:時間は過ぎ去る わたしたちは永遠」(森美術館)開幕レポート。多層化する時間に宿る永遠を問う【5/5ページ】

生命のリズム

 最後のキーワード「生命のリズム」では、人間に限らず、世界のあらゆる存在がそれぞれ固有のリズムを刻むことで時間をかたちづくっていることが示される。ここで展開されるのは、人間の尺度ではとらえきれない時間、そして戻ることのない不可逆性に関する思索である。

 10年以上にわたりマレーシアのムアールと広島県尾道を往復してきたシュシ・スライマンは、尾道の空き家から収集した100年以上前の瓦を砕き、粉末化して顔料をつくるインスタレーションを制作する。瓦という物質を媒介に、土地に積み重なった記憶と自身の時間が呼応する。

展示風景より、シュシ・スライマン《瓦ランドスカップ》(2025、部分)
展示風景より、左はキャリー・ヤマオカ《群島(2019年)》(2019)

 キャリー・ヤマオカの《群島(2019年)》では、「Angel Island」や「Heart Mountain」など、収容所や拘留施設の名称がアルファベット順に並べられ、強制移住と監禁の歴史が静かに可視化される。また《切り株2》(2024)では、35年ぶりに京都を訪れた際、大木の不在と新たな芽生えを目にした体験から、時間の循環と再生が象徴的に示される。

 地球温暖化によって融解する永久凍土から姿を現した2万年前のマンモスをとらえたマヤ・ワタナベの映像作品《ジャールコフ》(2025)は、極端なクローズアップとスローな視点を通して、人間の歴史をはるかに超えるスケールの時間を提示し、過去と未来の連なりへ思考を促す。

展示風景より、マヤ・ワタナベ《ジャールコフ》(2025)

 木原共の《あなたをプレイするのはなに? ─ありうる人生たちのゲーム》(2025)は、AIが国勢調査データから架空の人物像を生成し、観客がその人生をプレイするインタラクティブ作品。キャリア、病気、介護など、人生の選択が連鎖し、やがて死に至る構造は、人生をかたちづくる決断の不可逆性を寓話的に照射する。

展示風景より、木原共《あなたをプレイするのはなに? ─ありうる人生たちのゲーム》(2025)

 本展が提示する時間は、個人の記憶から社会の歴史、そして人類史を超えるスケールまで、複数の層として重なり合い、私たちの現在を形成している。過去と現在、そして未来へと連続する時間の流れのなかで、私たちがどのように存在し得るのか。本展は、その問いに向き合うための、豊かな思考の場となるだろう。

編集部