《牙笏(がしゃく)》は、天皇や役人が朝廷で威儀を正すために手に持つ笏(しゃく)だ。本品は『国家珍宝帳』に記載された象牙製のもので、天武・持統系の六代の天皇に継承された厨子に納めれていたとされる、正倉院に伝わる笏のなかでも格別の由緒を誇るものだ。

《平螺鈿背円鏡》は、聖武天皇のゆかりの鏡18面のうちのひとつ。背面には螺鈿によって大小の花葉文や小鳥をあしらったきらびやかな文様が広がる。また地にはトルコ石やラピスラズリなど、シルクロードの各地で産出した素材が用いられており、8世紀に中国・唐で制作されたこともわかっている。

《花氈(かせん)》は大唐花文様を全面に表したフェルトの敷物で北倉に伝わる31床の花氈のなかでも、同形同寸法のもう一品とともに、多彩な色彩を濃淡交えて駆使した傑作とされる。

1000年以上の時を超え、天平文化の粋をいまに伝える正倉院宝物の数々。本展を主催する奈良国立博物館の井上洋一館長はこう語る。「正倉院宝物を見ることで、シルクロードを介して行われた交流が新しい文物や思想、哲学を生み出したことを教えてくれる。それらが新たな社会形成の原動力になったということを感じてもらえたら」。



















