東京・原宿の明治神宮ミュージアムで、正倉院の宝物を後世へと受け継ぐためにつくられた模造品を紹介する展覧会「正倉院宝物を受け継ぐ―明治天皇に始まる宝物模造の歴史」が開幕した。会期は2024年2月25日まで。
奈良・法隆寺の正倉院は聖武天皇の愛用品を収めており、「シルクロードの終着点」とも言われるように、東西アジアの文化交流が色濃く反映された品々が集められている。
しかし、同時代の文物としては非常に保存状態が良いとされるこれらの宝物も、1877年、明治天皇が奈良を訪れた際には、1300年以上の時を経て破損しているものも少なくなかった。こうした状況を鑑み、明治天皇は整理と破損の激しかった楽器類の修理を命じた。これがいまも受け継がれる宝物の修理・模造事業の第一歩となっている。本展は、こうした正倉院の宝物の模造品を展示することで、その再現技術や研究成果を伝えようとするものだ。
誰もが教科書などで見たことがある《螺鈿紫檀五絃琵琶》の模造品(前期展示)は本展でも注目の一品だ。紫檀を主材に、玳瑁(たいまい)と夜光貝(やこうがい)で全面を装飾。正面には駱駝に乗る胡人が表現されており、五絃の琵琶は世界でも唯一の現存物とされる。この模造品は螺鈿・木工・絵画などの専門家が結集し、8年をかけて再現したものだ。会場では模造品のみならず、模造品作成の過程を知ることができる各パーツの構造や制作方法も紹介されている。
刀剣の模造も興味深い展示だ。1889年に赤坂離宮内の作業場に持ち込まれた正倉院の刀剣は、破損した鞘や柄、鍋びた刀身を修理し、さらに模造も制作された。当時の名工たちがその技術を余すことなく発揮する場にもなったという。
ほかにも757年の聖武天皇一周忌のために制作されたとされる《漆彩絵花形皿》の模造や、伎楽の演奏者の装束や、役柄の面といった、当時の法要や祭祀のあり方をいまに伝える模造品がそろう。
正倉院宝物の模造を一堂にあつめることで、当時の姿かたちを知るだけでなく、失われた技術を復古するための努力の軌跡を感じられる展覧会となっている。