今年の「顔」は?
今年の正倉院展の「顔」となっているのが、13年ぶりの出陳となる《瑠璃坏(るりのつき)》だ。《瑠璃坏》は、アルカリ石灰ガラスをコバルトで発色させて生まれた独特の色彩を持つもの。西アジアでつくられ、シルクロードを経て、古代日本にもたらされた。

坏身の表面には22個の円環が規則正しく貼り付けられており、この瑠璃杯を特徴づけている。また銀製の台脚は龍のような文様が表されており、東アジア圏において付け加えられたものとされている。台脚はかつて坏身と分離されていた時期があるものの、1904年にそれらをつなぐ蓮華形の受金具と台脚上端を新造し、接合された。
当時のガラス器のなかでも、姿、技法ともに最高水準のものとされており、いまなお見事な輝きを放つその姿に、思わず見惚れることだろう。
もうひとつの目玉と言えるのが、《黄熟香》。これはジンチョウゲ科の樹木に樹脂が沈着してできた香木で、「蘭奢待(らんじゃたい)」の雅名でもよく知られている。正倉院に入った経緯は明らかではないが、蘭奢待の名前の中には「東」「大」「寺」の3文字が隠されており、室町時代以降の記録に登場している。
足利義政、織田信長、明治天皇が切り取った旨を示す紙箋が付属するなど、日本史とともに歩んだ天下の名香だ。なお、東京の上野の森美術館で開催中の「正倉院「THE SHOW」-感じる。いま、ここにある奇跡-」(〜11月9日)では、この蘭奢待の香りが再現され、実際に聞香することもできる。




















