最後の第3章では、ユトリロの晩年となる「色彩の時代」が紹介される。名前の通り鮮やかな色彩を使用した作品を多く生み出した時代だ。1920年代に入ると父アンドレ・ユッテル(1886〜1948)によって、ユトリロはボージョレ地方の古い城館に軟禁され、規則正しい生活を送りながら、制作を強いられた。ユトリロはモンマルトルの街並みやフランスの風景を、絵や写真、記憶を頼りに描いたといわれている。

1935年、母ヴァラドンが病になった際、ユトリロは結婚し、妻とともに穏やかな生活を送りはじめる。そんななか描かれたのが、《シャラント県アングレム、サン=ピエール大聖堂》だ。ユトリロ作品に繰り返し登場する教会モチーフは陰鬱な雰囲気なものが多いが、本作では明るい画面が展開されている。「色彩の時代」という表現の通り、明るく彩度の高い色彩を用いた大型作品となっている。

ユトリロというひとりの画家を、個人史や本人の言葉を紹介しながら改めて紐解く本展。ひとりの人間の一生を追いかけながら作品に対峙することで、新しい「ユトリロ像」が立ち現れるかもしれない。



















