東京・新宿のSOMPO美術館で「カナレットとヴェネツィアの輝き」がスタートした。会期は12月18日まで。
本展は、ヴェネチア出身の巨匠・カナレットを本格的に取り上げる日本初の展覧会となる。カナレットの絵画作品を中心とした約70点の絵画や資料などで、中世から19世紀後半頃に至るヴェドゥータ(景観画)発展の系譜をたどっていく。
全3フロアにわたる展示のうち、まず、最初の展示室(5F)では、カナレット以前にヴェネツィアの街並みを描いた作品が紹介される。イタリアでは多くの画家が神話やキリスト教をテーマとした歴史画を描いてきたが、純粋な風景画はほとんど存在しなかった。そのため、現存する作品には、オランダなど北方の画家の作品や、都市の姿を俯瞰した地図のようなものが多く残されている。
18世紀に入って、ヨーロッパの貴族の子弟の間で「グランド・ツアー」と呼ばれる旅行が流行すると、文化的に爛熟期を迎えていた海上都市ヴェネチアは、ヨーロッパ屈指の観光地として多くの観光客を魅了した。この流れで、ヴェネチアの街並みを正確に描いた「ヴェドゥータ」はお土産品として旅行客から求められるようになり、彼らのニーズに応えて一躍人気画家となったのがカナレットだった。
カナレットの作品の最大のみどころは、線遠近法を駆使した都市空間の精緻な表現や、細部まで描かれた豊かな人物表現である。これらの技術は、幼少期に父について学んだ舞台美術の影響を強く受けている。とくに目を引くのが、ヴェネツィアの中心部を流れるカナル・グランデで行われるレガッタや昇天祭などの祝祭を描いた作品群だ。観客の熱狂が画面から生々しく伝わるだけでなく、当時の文化風俗を正確にとらえている点で、一級の歴史資料といえそうだ。
また、カナレットはヴェネチアだけでなく、パトロンからの需要に支えられ、ローマやロンドンなどでもヴェネツィア同様に観光スポットや景勝地を描いている。古代遺跡から文化の香り漂うローマ、のどかな水辺や田園風景が美しいロンドンなど、カナレットの描いた都市景観から、約200年前のヨーロッパ各都市の違いを見比べるのも楽しい。