内藤廣という建築家は、数々の有名な建築を生み出してきたが、その功績の裏にはそれよりも多くの葛藤や挑戦、挫折があったのだということを肌で感じることができる。またこれだけの建築物を生み出している内藤でも、じつは多くのコンペに負けている経験があることも詳らかに開示している。
ただ、負けたコンペのなかでもとくに印象的なのが、2010年の手帳に書かれている、カルチュア・コンビニエンス・クラブ株式会社が運営する代官山のTサイトのコンペだ。内藤は、代表の増田宗昭の考えに共感し、力を入れて提案を作成したが結果は実らなかった。しかしコンペの後に増田から、「これはこちらの負けです、まだこのオペレーションをするだけの組織になっていません」と言われたようで、それに対し内藤は、「これはうれしかった。負けてこんなことを言われたのは初めてだった」と記している。

本展は、上の階に上がるにつれて、内藤というひとりの建築家の人生が進むような構成になっているが、数々の積み上げられていく実績とともに、個人的な心情や思考の変化すらも追体験できるようになっており、内藤という人物の、成功体験ばかりではないリアルな個人史をなぞるような展示となっている。
同時期に行う渋谷ストリームホールでの「建築家・内藤廣 赤鬼と青鬼の場外乱闘 in 渋谷」展とは違った展覧会にしたいという意向で、手帳を通じて心のうちをさらけ出すような展示構成のアイディアを出したのは、じつは内藤だという。「思ったようにつくってほしい」というお題に沿って設計した本施設のなかで展開される、内藤の心のうちと思考の軌跡。通常一般公開はされないこの美しい建築物のなかで、ひとりの建築家の人生に思いを馳せてみてほしい。




















