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「建築家・内藤廣 なんでも手帳と思考のスケッチ in 紀尾井清堂」レポート(紀尾井清堂)。ひとりの建築家の手帳を介してたどる、40年間の思考の軌跡【5/6ページ】

 実際1冊ずつ手帳のなかを見ていくと、ファミレスの紙ナプキンに青のサインペンで描いたスケッチや、写真、新聞の切り抜きもある。人に見せる前提のものではないからこそ、内藤の心のうちがわかるようなリアルな悩みや葛藤、アイディアの種も随所に見つけることができる。

展示風景より、ファミレスの紙ナプキンに青いインクで書かれたスケッチ(許可を得て撮影)

 例えば、「海の博物館」の総仕上げの年であった1991年の手帳には、ローコストでの設計に追われ何もかもが嫌になった内藤が、目的も決めずにパリへ逃げたときの様子がわかる。安宿に泊まり、10日間近く散歩するだけの日々を過ごし、そのなかで描いた教会や宿のダイニングのスケッチが、手帳のなかに収まっている。

展示風景より、パリでのスケッチ(許可を得て撮影)

 1997年の手帳には、「茨城県天心記念五浦美術館」の現場写真が貼り込まれている。この写真の説明を、内藤はこう記した。

 コンペには勝ったものの、なんと設計に取り掛かってから竣工まで一年半。こんなに複雑で大きな建物なのに、設計も工期も住宅並みのスケジュール。すべては政治日程で決まっていた。その超突貫工事の最終盤、三月末の年度末までに完成しなければならなかった。現場がなかなか進まず、どうしても気になって正月の二日、誰もいない現場に行った時の写真。情けなくて涙が出てきた。とても残り三ヶ月とは思えない現場風景。自分への戒めとしてノートにこの時の写真を貼った。一生忘れられない衝撃的かつ絶望的な風景。
展示風景より、「茨城県天心記念五浦美術館」の現場写真(許可を得て撮影)