展覧会はまずジョセフ・アルバース(1888〜1976)が92年に発表した版画集《フォーミュレーション:アーティキュレーション》の展示から始まる。アルバースのバウハウスでの教育や色彩に関する著作はよく知られているが、「隣り合う色同士が影響し合うことで本来とは異なる色に見える」という点に注目した、色面構成による実験的な作品も制作。これらにより、「応答する眼」展ではオプ・アートの先駆者として位置づけられた。
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展示されている『フォーミュレーション:アーティキュレーション』は、1972年に刊行されたアルバースによる全2巻の版画集で、過去に制作した作品をもとに制作された集大成的なものだ。本作は、飛び出す、凹む、隣合う色によって異なる色に見えるなど、オプ・アートが志向した錯視効果を端的に知ることができる、わかりやすい資料といえるだろう。
玩具などにもよく見られる、角度によって絵が変化するレンチキュラーを作品に取り入れたのが、敬虔なユダヤ教徒の家に生まれ育ったイスラエル出身のヤーコブ・アガム(1928〜)だ。キネティック・アートの第一人者として位置づけられるアガムがレンチキュラーに取り組むようになったのは、1971年以降。「アガモグラフ」と名打ったそれは、アガムが持つ「すべてのものが流動性をもち、次の生命の誕生に結びつくというユダヤ教的宇宙観」(展示の解説パネルより)との関連が指摘されるという。なお、《鼓動する心臓(ムード)》(1972)は、触れると9つのパーツが揺れ動く立体作品で、平面におけるレンチキュラーとの連関が興味深い。監視員に声をかければ、動いているところを見ることも可能だ。
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