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草間彌生の祈りと原点。故郷・松本市美術館の学芸員が語る「毎日愛について祈っている」

草間彌生の新作シリーズ「毎日愛について祈っている」を多角的に紐解く新たなシリーズ。その第一弾では、松本市美術館の学芸員で、20年以上にわたり草間芸術に向き合ってきた澁田見彰氏が執筆。草間彌生の故郷とのつながりを起点に、幼少期の体験から現在進行形の新作シリーズまで、草間の創作の軌跡をだどり、その深遠な芸術観と祈りを込めた作品の魅力に迫る。

文=澁田見彰(松本市美術館学芸員)

草間彌生 毎日愛について祈っている 2023 ©YAYOI KUSAMA Courtesy of Ota Fine Arts

 世界を席巻し続ける前衛芸術家・草間彌生。絵画、彫刻、インスタレーション、映像など多岐にわたる表現方法で、多くの鑑賞者を魅了している。2000年以降、各国を代表する大規模な美術館での個展を経ながら、作品は大型化しつつ、さらに没入感が増していることも草間芸術が受け入れられている要因であろう。

 布地に詰め物をした突起物を集合させたソフト・スカルプチャーや、部屋全体を鏡で構成し、永遠に拡がるイメージを追体験させてくれるミラールームなどはその代表格と言えるだろう。それらが草間の表現手段として登場したのは、ニューヨークで活動していた1960年代。それから半世紀以上が経過しているのだが、いまなお鑑賞者の新鮮な驚きとともに賛辞を浴び続けている。前作の評価を乗り越える新作をつくり続けることはそう簡単なことではないが、それをやってのけたのが草間彌生だ。そこには自らに課した「前衛芸術家」としての自負と矜持があった。より正確に自身のイメージを表出するために適した素材や技法を追い求めることで精度を高めている。

草間彌生 ©YAYOI KUSAMA Courtesy of Ota Fine Arts

 草間芸術の特徴は平面作品と大型野外彫刻やミラールーム、バルーンを用いた巨大なオブジェ、空間を埋め尽くすインスタレーションが同時進行している点である。双方が呼応するように進化し続けているが、絵画によるイメージが根幹にあり続けるから多様な表現方法に躊躇なく挑戦できたと言える。10代で描くことを自身の存在証明と位置づけ、デッサンを繰り返し、その術を得た。20代で心から浮かび上がる「何か」を懸命に探り、渡米後に「無限の網」と「水玉」を確立させた。派生していくイメージは唯一の個性として輝き始め、多くの称賛と賞を得るが、その場にとどまることなく、さらに高みを目指して歩みを続けた。草間はつねに自分自身の現状を分析し、次に何をすべきかを冷静に考え、実行してきた。長年の昼夜を問わぬ制作に悲鳴をあげる心と体を奮い立たせつつも、いっぽうで残された時間を意識せざるを得なかったからだ。とくに2000年代に入ってから立て続けに発表された「愛はとこしえ」、「わが永遠の魂」という大型平面作品シリーズによって、前衛芸術家・草間彌生の原点は画家であると再確認させられることになった。

 そして現在、草間がそのすべてを賭して取り組んでいるのが平面作品群「毎日愛について祈っている」である。

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