4年ぶりに実現したソフィ・カルの《グラン・ブーケ》
いっぽうのソフィ・カルでまず注目したいのが、《グラン・ブーケ》だ。三菱一号館美術館の代表的なコレクションであるオディロン・ルドンの《グラン・ブーケ(大きな花束)》に着想を得たこの作品。当初は2020年に開催された「1894 Visionsルドン、ロートレック展」の際に展示する予定だったが、コロナ禍によってカルの来日が不可能となった。本展は4年越しに実現した展示となる。
作品はルドンの《グラン・ブーケ(大きな花束)》の約3分の1の大きさで、ライトボックス上に日本語のテキストが配置され、消灯と点灯を繰り返すことでテキストと《グラン・ブーケ》の絵が交互に浮かび上がる。なお同じ部屋では、建築家のフランク・ゲーリーがカルの個展のたびに贈った花束をモチーフにした《フランク・ゲーリーの花束の思い出》も展示されている。
このほか、本展ではソフィ・カルの代表的なシリーズ「なぜなら」「あなたには何が見えますか」「監禁されたピカソ」「フランク・ゲーリーへのオマージュ」なども見どころだ。
例えば「海を見る」は14点からなる映像作品で、今回は6点が並ぶ。画面に映るのは、海に囲まれたトルコの首都・イスタンブールで、貧困を理由に海を一度も見たことがない人々。この人々が初めて海を見るその瞬間を映したものだ。じっくりとその姿に向き合ってみてほしい。
「監禁されたピカソ」は本展タイトルとも強く結びつく。同作は、2023年にソフィ・カルがパリのピカソ美術館で発表した作品を再構成したもの。当時の制作テーマはピカソの「不在」。ロックダウン中のピカソ美術館に並んだ、保護紙で覆われたピカソ作品を目にしたカルはそれらを撮影し、作品化した。
本展最後を飾る 「なぜなら」は、額装された写真の手前にテキストが刺繍された布が掛けられ、鑑賞者はこの布を手でめくり、その下にある写真を見ることとなる。テキストは「Parce que(なぜなら)」から始まる言葉となっており、写真のネタバラシが先に存在する構造となっている。
このように、ソフィ・カルの多様な作品を一度に見れるという点においては、本展は貴重な機会と言えるだろう。
- 1
- 2