1970年代から現在までのフェミニズムにまつわる映像表現
それでは小林のコメントを交えながら4つのキーワードをたどっていこう。まず「マスメディアとイメージ」では、主にステレオタイプな女性像への違和感を表している。テレビの料理番組をパロディ化した、マーサ・ロスラー《キッチンの記号論》では、アルファベット順に調理器具を紹介しながら、家庭内労働や家父長制度への憤りが吹き出す。「当時のアメリカでは、テレビや雑誌、ドラマなどマスメディアに押しつけられる女性イメージと自身とのギャップについて議論する土壌が生まれていた、そうした時代の影響を受けているのではないかと思います」(小林)。
また、テレビドラマ『ワンダーウーマン』を素材とした、ダラ・バーンバウムの《テクノロジー/トランスフォーメーション:ワンダーウーマン》は、お決まりの変身シーンを切り出し、テーマソングの歌詞とあわせてループ編集して見せることで、男性が潜在的に求めるヒロイン像に気づかせる。ちなみに筆者は、女性解放運動のヒロインとも言われた『ワンダーウーマン』の再放送を90年代にさして疑問も抱かずに視聴していたひとりだ。しかし今回の鑑賞で、美しさと従順さをあわせ持つヒロインの戦闘シーン+テクノロジー+星条旗の衣装という組みあわせに疑念を抱くようになった。
次のキーワードは「個人的なこと」。出光真子の《主婦たちの一日》は、4人の主婦が起床から就寝までの行動について、家の間取り図の上を駒を動かしながら語りあう映像作品。話者の姿は見えない。笑い声に小鳥のさえずりが重なる。小林は「字幕をつけるために皆でスクリプトを文字起こししているときに、出光さんの友人と思われる奥様たちが『また台所に自分は戻っていった。1日のうち台所にいる時間がなんて長いんだろう』などと気づく瞬間を映像で記録していることに気づいた」という。「ユング心理学を学んだ出光さんは、心理学的なセッションで自分を客観視する経験をされています。この作品でも、他愛のない日常会話のようですが、自分の行動を思い起こすおしゃべりのなかで、女性の1日のルーティンについて参加者それぞれに気づく瞬間があるんです」(小林)。
また、固定化されたアングルで主婦たちの限定的な行動範囲を示し、“見えない家事”や“見えないケア”の多さを浮き彫りにしている。そのいっぽうで、近年の共働き夫婦においては、子供も含めて、家事やケアを生きる術として無理なく共有できれば、将来的にも協力しあう家庭観へとつながっていくのではないか。さらにその子供たちが成長した未来には、家庭や血縁に縛られない、新しい社会の助け合いの形が創出されるのではないだろうか。