展示室の中央には紫外線と赤外線の育成ライトで育てられている稲がある。この稲は「亀ノ尾」という「コシヒカリ」や「あきたこまち」の祖先にあたる品種であり、明治から大正にかけて広く栽培されたものの、現代農法に向かないために栽培されなくなった。
室内で人工的に育成されるこの稲の水分となっているのは、釣り餌などに使われるイトメの排泄物を含んだ水槽の水を、バクテリアの住みついた溶岩の水槽を通すことで窒素を供給したものだ。稲に給水した残りの水は再びイトメの水槽へと戻り、そしてイトメの水槽には餌となる藻がまた別の水槽から供給されている。
さらに、このイトメを餌として送られているのが金魚の水槽で、この金魚の糞もイネの養分とるように巡回している。金魚は約2000年前に中国南部で発見された野生の赤いフナが原種であり、そこから人為的な餞別と淘汰を経て、約500年前に日本へと渡来した説が有力となっている。数々の日本画やイマーシブ・ミュージアムにおける体験型作品のモチーフとなっている金魚は、日本の夏を象徴する存在として多くの人に認知されている。しかしながら、実際には約500年前に外来した魚であり、日本のアイデンティティとはどこにあるのかを問う存在でもある。