「森靖展 -Gigantization Manifesto-」(碌山美術館)開幕レポート。「大きさ」とは何か

おもに木彫を表現領域として巨大彫刻を制作する森靖の個展「森靖展 -Gigantization Manifesto-」が、長野・安曇野の碌山美術館で開幕した。会場の様子をレポートする。

文・撮影=安原真広(ウェブ版「美術手帖」副編集長)

展示風景より、森靖《3MNW-The Tree of Lst Things》

 長野・安曇野の碌山美術館で森靖(もり・おさむ)の個展「森靖展 -Gigantization Manifesto-」が開幕した。会期は12月8日まで。

 森靖は1983年愛知県生まれ。おもに木彫を表現領域とし、歌うエルビス・プレスリーが両性具有化した4メートルに迫る代表作《Jamboree-E. P.》(2014、本展未出品)など、見る者を圧倒する巨大な作品制作を特徴としている。本年は運慶の没800年を機に像(イメージ)のスケールへの問題意識を先鋭化した「巨大化宣言」を行い、より巨大な作品を制作を目指す。

森靖、会場にて

 本展が開催される碌山美術館は、荻原守衛(おぎはら・もりえ、号:碌山[ろくざん]、1879〜1910)の作品を保管・公開するため、長野県下の小中学生をはじめとする約30万人の寄附を集めて1958年に開館した。館内では荻原の作品のほか、高村光太郎などの友人や、荻原の系譜に連なる彫刻家の作品を4つの展示棟で紹介しており、日本の近代彫刻の歴史を語るうえでは欠かせない美術館だ。

 展覧会は第一展示場と第二展示場を会場としている。森は本展を自身の「回顧展」としているが、第一展示場ではその言葉どおり、高校の卒業制作から今年制作した巨大な最新作までが一堂にそろう。

 中央に鎮座する高さ280センチメートルの《3MNW-The Tree of Lst Things》(2024)は、オーストリア・ドナウ湖畔で見つかった旧石器時代の「ヴェレンドルフのヴィーナス」をモチーフにしたものだ。その左目部分からは、もうひとつの身体が現れており、まるでドローイングのような躍動感あふれるノミのあとが残るその身体は、左右の木柱とともに眼の前に立ちはだかるような印象も与える。ヴィーナスの目線は上空を見据えており、素材となっていた木がかつて高く上に伸びていたことを想起させる。

展示風景より、森靖《3MNW-The Tree of Lst Things》

 このヴィーナスの奥には、森の初期作品や同館のコレクションである新海竹太郎、荻原守衛、戸張孤雁、高村光太郎らの彫刻が並ぶ。

 《Self-potrait》(2002)は、森が高校の卒業作品展に出品したもので、オーギュスト・ロダンが様々な作品で扱ったのけぞる男のトルソと、荻原守衛の腕を組む男の半身《文覚》をモチーフとした作品だ。学生時代より彫刻史を体系的に参照し、自らが彫刻を制作する理由を模索しながら制作を行ってきた森の姿勢が伝わってくる。

展示風景より、右が森靖《Self-potrait》(2002)

 この《Self-potrait》の隣に配置されている《Sumo Stomp》(2007)は、学部時代の卒業制作作品。こちらは江戸時代から明治にかけて流行した、実際に生きているかのように見える細工物「生人形」の流れを組むような写実性を追い求めた作品で、その横の新海竹太郎《お俊・傳兵衛》(1916)のリアリズムのあり方とも共鳴する。

展示風景より、左から森靖《Self-potrait》(2002)、《Sumo Stomp》(2007)、新海竹太郎《お俊・傳兵衛》(1916)

 このように森は、あらゆる時代において人間が営みとして続けてきた人物像をつくるという行為を、その文脈から思想、技法までを探求し、内面化してきた。各時代の人物像を構成していた要素が複雑に絡み合うその彫刻群は、彫刻の歴史に根ざした絶え間ない思索から生まれているといえるだろう。

編集部

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