「GO FOR KOGEI 2024」開幕レポート。可視化される生活のなかの表現、表現のなかの生活【5/5ページ】

 蕎麦のフルコースが楽しめる「酒蕎楽くちいわ 青蔵」にある蔵では、富山伝統の井波彫刻師を父に持つ岩崎努が、ひとつの木材から作品を彫り出す「一木造り」でつくられた本物と見紛うような柿を展示。作品は実物そのものを写していると同時に、自らの心象風景も込められているという。

展示風景より、岩崎努《嘉来》(2020-2024)

 漆を用いるアーティスト・五月女晴佳は「化粧」をテーマに、BAR《Aka Bar》のなかに作品を展示した。漆と化粧には親和性があると語る五月女。人間のセクシュアルな欲望の象徴でもある唇をモチーフとした赤い漆作品を中心に据えたBARは、既存の漆表現とは趣の異なる、生の躍動がみなぎっている。

展示風景より、五⽉⼥晴佳《Bondage》(2020)

 漆で立体作品を制作する伊能一三も、家族をモチーフとした像を蔵のなかで展示。仏像制作と同様の乾漆技法で作成された本作は、伊能が「なぜ自分がここにいるのか」という存在の不思議さを問いながらつくられたものだ。

展示風景より、伊能一三《へいわののりもの》

 精米に使われていた倉庫の跡となる「セイマイジョ」では、石渡結によるインスタレーションを展開。世界各地で集めた土で染めた糸を機械織りした作品は自身の身体をモチーフに、いっぽうの手織りで制作した作品は糸を織る営みそのものがモチーフになっているという。小さな手作業が大きな存在をつくりだす、織物の構造そのものが表現された作品だ。

展示風景より、左から⽯渡結《Tabula Rasa》、《Vita》(ともに2024)

 かつて蕎麦屋だった店舗を改装した「New An」では、5名のアーティストが展示を実施。外山和洋による金属を溶解して再構成することで独特の風合いが表面に宿った器や、安田泰三の溶けたガラスの柔らかさを活かした繊細な文様の器を展示。

展示風景より、外山和洋の作品
展示風景より、安田泰三の作品

 また、釋永岳は革や木、コルクのように見える焼物を、澤田健勝はヨーロッパの鍛冶技術でつくられた金属皿を制作。さらに磯谷博史は縄文土器の破片をつかった球体の陶製品や、蜂蜜と集魚灯が落とし込まれたガラスボトルのインスタレーションなどを展開している。

展示風景より、手前左から澤田健勝、釋永岳の作品
展示風景より、磯⾕博史《花と蜂、透過する履歴》(2018)

 生活の中で表現をするものも、そして表現したもののなかから見える生活も、双方が可視化されている「GO FOR KOGEI 2024」。東山エリアと岩瀬エリアをまわり、工芸と人間がどのような関係を取り結んできたのか、改めて考えられる芸術祭だ。

編集部

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